海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「狙った獣」マーガレット・ミラー

サイコサスペンスの先駆的作品でもある1955年発表作。日常がじわりと狂気に浸食され、逃げ場無き闇へと変貌していく怖さ。心理描写に長けた女流作家ならではの筆致が冴える秀作だ。 父親の遺産を継いだヘレンは、30歳となった今もホテルに引きこもり、孤独な…

「バビロン脱出」ネルソン・デミル

デミル(本作邦訳時の表記はドミル)が名を上げた1978年発表作。この後、トマス・ブロックと共作した航空サスペンス「超音速漂流」(1982)、ベトナム戦争を主題とする重厚な軍事法廷小説「誓約」(1985)、斬新な設定と成熟した筆致に唸る至極のミステリ「…

虚構を超える現実

以下はスティーヴン・キング「霧/ミスト」のレビュー中で書いたものだが、加筆した上で切り離し、『旅の記録』に収めておきたい。 2021年1月現在、現代を生きる全ての人が、出口の見えない同時的な不安、最悪の場合には死に至る予測不能な疫病蔓延の直中に…

「霧/ミスト」スティーヴン・キング

1980年発表作、キングの中編としては最も読まれている作品かもしれない。語り手は、デヴィッド・ドレイトン。物語は彼が残した手記というスタイルで展開する。 舞台は米国メイン州西部。激しい嵐が過ぎ去った翌朝、束の間の静寂を経て地区一帯を覆い尽くした…