海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

「血の夜明け」ロバート・モス

1991年発表の濃密なスリラー。長きにわたりメキシコは政治腐敗の極みにあり、「制度的革命党」は不正選挙で半世紀以上も独裁体制を敷いていた。政権に対する私怨を持ち、北部の分離独立を目指す首謀者カルバハルは、麻薬密輸業者を引き込み、政府転覆のプロ…

「暗殺者の烙印」ダニエル・シルヴァ

あとに美術修復師ガブリエル・アロンシリーズで著名となるベストセラー作家の1998年発表作。大統領選に絡む軍需企業の策略を主軸に、CIAの敏腕工作員と元KGBの凄腕暗殺者の対決を描く。謀略自体は散々使い古されたもので、背後の秘密組織も007もどきだが、政…

ジョン・ル・カレの航跡

既に報道されている通り、2020年12月12日にジョン・ル・カレ(本名デイヴィッド・コーンウェル)が死去した。享年89歳。私は熱烈なファンという訳ではなかったが、訃報を知って或る喪失感に陥ったのは、偉大な作家をまた一人失ったという寂寥と、スパイ小説…

海へ

その冬、初めての雪だった。夕刻から降り出した風花は、街を抜けて湾岸道路を走る頃には勢いを増していた。ヘッドライトの光芒に乱反射し舞い落ちてくる雪片は、幻影のように私を淡い記憶の彼方へと導いた。揺れ惑う結晶のプリズム。その残像に軽い目眩すら…