海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「暗殺者の烙印」ダニエル・シルヴァ

あとに美術修復師ガブリエル・アロンシリーズで著名となるベストセラー作家の1998年発表作。大統領選に絡む軍需企業の策略を主軸に、CIAの敏腕工作員と元KGBの凄腕暗殺者の対決を描く。謀略自体は散々使い古されたもので、背後の秘密組織も007もどきだが、政財界の黒幕らの醜悪さ、俗物ぶりの造形には、ジャーナリストであったシルヴァの経験が活かされている。後半から一気にボルテージを上げ、終盤でのスピーディーな活劇が最大の読み所となっている。主役格が二人なため、どちらに感情移入するかは読み手次第となるが、個人的には非情に徹する寡黙な暗殺者の魅力が上回る。ただ、結末は不完全燃焼で、窮地へと陥れた首魁に反旗を翻す訳でもなく、あくまでもカネに固執する暗殺者には物足りなさも感じた。スッキリしない結末だが、続編があるため、総体的な評価は合わせて行いたい。

評価 ★★★