海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「海外ミステリ専門誌」という呪縛

早川書房「ミステリマガジン」が〝海外ミステリの情報も掲載〟する定期刊行誌と成り果ててから久しい。 1956年創刊の前身「E Q M M」時代から、海外の優れた作家たちをいち早く紹介し、珠玉の短編や刺激的な評論で推理/探偵小説の魅力を伝え、多くの海外ミ…

「死ぬほどいい女」ジム・トンプスン

皮肉にも死後になって評価が高まり、米国ノワール界の代名詞的存在となったトンプスン。異端であり前衛でもあった不世出の作家は、半世紀以上を経て今も〝発掘〟の途上にあるのだが、この異才を受け容れる環境がようやく整ったということか。だが、書評家ら…

「緊急深夜版」ウィリアム・P・マッギヴァーン

経験上、新聞記者を主人公とするミステリは秀作が多い。加えて、作者自身が経験豊かな元ジャーナリストであれば、まずハズレはない。マッギヴァーンも、その一人。悪徳警官物の先駆「殺人のためのバッジ」(1951)や、レイシズムに切り込んだ名篇「明日に賭け…

「キングの身代金」エド・マクベイン

息子を返してほしければ、50万ドル用意しろ。若い男二人組が犯罪を実行に移す。大手靴製造会社重役キングの自宅から少年を連れ去り、脅迫電話を入れた。事は順調に運んだ。ただひとつ、最低最悪のミスは別として。誘拐したはずのキングの長男ボビーは、まだ…

「裏切りのゲーム」ディヴィッド・ワイズ

1983年発表作。ワイズは米国のジャーナリストで、CIA内幕物のノンフィクションを何冊か書いている。内情には詳しいらしいが、その経験は本作に生かされてはいないと感じた。謀略を巡る元スパイの捜査活動を主軸とし、娯楽的要素を重視。陰謀自体は荒唐無稽だ…

「殺戮の天使」ジャン=パトリック・マンシェット

持論だが、ストレートに悪と対峙して正義を成すことに比重を置くのが「ハードボイルド」、逆に悪の側面から正義のあり方を問い直す小説を「ノワール(暗黒小説)」と定義している。要は、主人公(=作者)の立ち位置がどちら側にあるか、で決まる。必然的に…

「ドゥームズデイ・ブックを追え」ウィリアム・H・ハラハン

1981年発表の謀略小説。このジャンルは概して大風呂敷を広げるものだが、アイデアの奇抜さで本作は群を抜いている。 ドイツ再統一を目指す結社が、東西分断を引き起こした元凶のソ連を崩壊させるために、前代未聞のシナリオを書く。西側から越境して武器を運…