海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「ピルグリム」テリー・ヘイズ

近年のスパイ/冒険小説の衰退に憤りを感じていたファンの渇きを一気に癒やす紛れも無き傑作。三分冊の大長編にも関わらず、中弛みや無駄なエピソードの類は一切無く、凄まじいテンションを保ったまま終盤まで疾走する。散りばめられた枝葉が最終的には全て…

「モルディダ・マン」ロス・トーマス

ロス・トーマス1981年発表作。好きな作家にエルモア・レナードを挙げているが、刺激的なプロットよりも人物描写や会話などに熟成の「味を出す」作風が確かに似通っている。ストレートなミステリだけでは飽き足らず、滋味豊かな大人の娯楽小説を楽しみたいと…

「カーラのゲーム」ゴードン・スティーヴンズ

重い読後感を残す秀作「テロルの嵐」に次いで翻訳されたスティーヴンズ1996年発表作。本作でもテロリストによるハイジャックをクライマックスで展開、「…嵐」でも主題としていた人種/宗教/国家間の対立による不毛な争いによって無辜の人々が犠牲となってい…

「裏切りの街」ポール・ケイン

1933年発表のポール・ケイン唯一の長編。ハードボイルドの隠れた名作であり、古典であるばかりでなく、犯罪小説としてもノワールの先駆としても重要な作品である。冷徹でタフな主人公の格好良さ、複数の犯罪組織と腐敗した市政を内部からぶち壊していく骨太…

「暗い森」アーロン・エルキンズ

“スケルトン探偵”の異名を持つ形質人類学者ギデオン・オリヴァーを主人公とする第二作。このシリーズは日本でも好評だったようで、その多くが翻訳されている。本作が私のアロキンズ初体験となるが、正直期待はずれだった。登場人物らの軽妙なやりとりなどか…

「ペット・セマタリー」スティーヴン・キング

読者は、誰もが自問したことだろう。もし、主人公と同じ極限的な悲劇に見舞われ、そこから逃れられるすべがたったひとつ残されているとすれば、それを選択するか否か。例え、倫理観に背こうと、非人間性を咎められようと、或る瞬間を「無かった」ことにする…

「白の迷路」ジェイムズ・トンプソン

ジェイムズ・トンプソンの地鳴りのような怒りに打ち震える2012年発表のカリ・ヴァーラシリーズ第三作。ノワールという小説の枠を突き破り、フィンランド黒書ともいうべき苛烈な批判の書として、更なる深化を遂げている。 「物語の先に」と題されたトンプソン…

「悲しみのイレーヌ」ピエール・ルメートル

やはりルメートルは只者ではない。カミーユ・ヴェルーヴェン警部を主人公とする2006年発表の第1作。近年稀な大ベストセラーとなった傑作「その女アレックス」でも触れられているカミーユの妻イレーヌの残酷で悲劇的な顛末が明らかとなるのだが、出版事情が…

「レッド・スパロー」ジェイソン・マシューズ

元CIA局員による2013年発表のスパイ小説。〝モグラ狩り〟を主軸にアメリカとロシアで展開する現代の諜報戦を描く。旧ソ連圏の東欧や中東諸国などで情報収集とリクルートに関わったという著者の経験が生かされ、冷戦以後の潜入スパイの様子を知ることが出来る…