海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-03-01から1ヶ月間の記事一覧

旅の途上、沈黙する街で 【2020.4.1追記】

非日常が日常へとなりつつある。小説や映画ではない。不条理な死がどこまでも現実味を帯びて間近に迫り、脅かしている。ミステリを通して親しんだ海外の都市は情景を変え、そこにあったはずの賑やかな人々の笑顔も失われている。沈黙する街、無辜の人々の死…

「触手(タッチ)」F・ポール・ウィルスン

1986年発表作。病人に触れるだけでどんな難病も一瞬で治す「癒しの力」を手にした名も無き医師の昂揚と苦悩を描いた秀作。 物語終盤で、主人公アラン・バルマーが医者として生きてきたこれまでを振り返る場面がある。……小さい頃から医者になりたかった。「カ…

「拷問と暗殺」デイヴィッド・L・リンジー

1986年発表、ヒューストン市警殺人課刑事スチュアート・ヘイドンシリーズ第三弾。フォーマットは警察小説だが、これまでよりも主題を拡げ、政治色を強めている。 白昼堂々ヒューストンの路上で、メキシコ人の事業家ガンボアを狙った暗殺未遂事件が起きる。暗…

「緋色の研究」コナン・ドイル

シャーロック・ホームズ初登場の長編で1887年発表作。〝名探偵の代名詞〟として今も世界中に浸透している訳だが、私見としては、謎解きの面白さをシャープに伝えるミステリの原型を整えたことが本シリーズ最大の貢献だと考えている。本作は、総じて批評家ら…

「発動!N Y破壊指令」デヴィッド・ウィルツ

1985年発表作。米国陸軍特殊部隊の精鋭スティッツアー軍曹は、山中での演習時に誤ってコヨーテの穴に落ち、三日間閉じ込められて発狂した。その後は専門施設に5年間にわたり監禁されていたが、或る日、新聞を読んでいた男は、まるで啓示を受けたかのように…

「弁護」D・W・バッファ

1997年発表のリーガル・サスペンス。主人公は、新進気鋭の弁護士ジョーゼフ・アントネッリ。冒頭1行目で「わたしは勝って当然の裁判に負けたことはなかったし、負けて不思議のない裁判のほとんどに勝ってきた」と語り始める。そして「わたしの弁護士人生は…

「イプクレス・ファイル」レン・デイトン

1962年発表のデビュー作。デイトンは言わずと知れたスパイ小説界の大御所だが、現在では殆どの飜訳作品が絶版となり、著名な割には読まれていない。玄人好みの作家として定着しているのは良しとして、ル・カレなどに比べて些か不遇な扱いを受けているのは歯…