海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「ダブル・カット」ウィリアム・ベイヤー

エルサレムを舞台とする異色のサスペンス/スリラーで、1987年発表作。本作執筆にあたり現地に一年間滞在したというだけあって、ベイヤーの実体験に基づくディテールがリアリティを生み、物語の強度を高めている。永遠に混じり合うことのない異質の文化/民…

「心を覗くスパイたち」ハーバート・バークホルツ

1987年発表作。コンセプトは邦題の通りで、他人の思考が読み取れる特殊能力を持ったスパイたちの工作活動と葛藤を主軸にストーリーが展開する。SF的要素を生かすには、それ相応の腕が必要だが、概ね違和感なく組み込んでいる。特異な能力を備えた人間が一…

「手負いの森」G・M・フォード

1995年発表、シアトルを舞台とするハードボイルドの力作。過激な環境保護団体にのめり込んだ孫娘を連れ戻してほしい。依頼人は裏社会のボスだった。私立探偵レオ・ウォーターマンは、早速怪しげな団体の周囲を探り始める。やがて嗅いだのはインディアン保留…

「迷いこんだスパイ」ロバート・リテル

冷戦期を背景とするスパイ小説のスタンダードは「亡命もの」である。同テーマの〝職人〟ブライアン・フリーマントルをはじめ、これまで多くの作家によって傑作が書かれてきた。亡命を巡る諜報戦には敵味方問わず謀略が渦巻き、不信と裏切りに主眼を置くエス…

「八番目の小人」ロス・トーマス

1979年発表のスパイ・スリラー。玄人向けと評されるトーマスだが、決して敷居は高くない。スタイルの近いエルモア・レナードと同様、生きのよい会話を主体にテンポ良く展開するストーリーは、時にうねるようなグルーヴを伴い陶酔感をもたらす。第二次大戦終…

「木曜日の子供」テリー・ホワイト

心の片隅にいつまでも残る余韻。あの後、登場人物たちはどんな人生を送ったのだろうと、日常の中でふと思いを馳せる物語。デビュー作「真夜中の相棒」(1982)は、そういった読後感を与えた数少ない作品だった。女性作家テリー・ホワイト(Teri White)が、…