海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「手負いの森」G・M・フォード

1995年発表、シアトルを舞台とするハードボイルドの力作。
過激な環境保護団体にのめり込んだ孫娘を連れ戻してほしい。依頼人は裏社会のボスだった。私立探偵レオ・ウォーターマンは、早速怪しげな団体の周囲を探り始める。やがて嗅いだのはインディアン保留区での不法投棄に絡む犯罪の臭い。どうやら、この仕事は一筋縄ではいかないらしい。

プロットはシンプルで、文体も飾り気がなくシャープ。米国社会のマイノリティであるネイティブ・アメリカンの実態を背景に置くが、物語は社会的/歴史的問題を掘り下げることよりも、根深いレイシズムによって歪んで軋むコミュニティの有り様に焦点を当てている。
主人公のバックグラウンドは最低限に抑え、脇役の造型に力を入れている。レオは〝準ホームレス〟4人を助手として率いていたが、その中のひとりが事件の核心に近づき過ぎて殺される。やり場なきレオの悔恨と憤怒。それこそが真相を暴く原動力となっていく。敗残者でありながらも誇り高い彼らを愛情込めて描いており、その生彩溢れる情景が本作の魅力と言っていい。
ハードボイルドの巨匠らへのオマージュもそこかしこに感じ、滲むような抒情性も良い。巻末解説によれば、フォードは一番好きな作家にロス・マクドナルドの名をあげている。さらに深化しているはずのシリーズは、残念ながら翻訳されていない。

 評価 ★★★