海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「拳銃を持つヴィーナス」ギャビン・ライアル

不朽の名作「深夜プラス1」によって冒険小説ファンに愛され続けるギャビン・ライアル。だが、寡作でありながらも作品の出来不出来が激しく、本作は残念ながら凡作の方に入る。 拳銃の骨董商を営む主人公がニカラグアの富豪の依頼を受け、著名な芸術家の手に…

「キラー・エリート」ロバート・ロスタンド

軽快な活劇で読ませるアクション小説。作者が意図したかどうかは定かではないが、設定にギャビン・ライアル「深夜プラス1」との共通点が多々見られる。即ち、訳ありの要人を護衛しつつ期限内に目的地まで運ぶチームと、その阻止を謀るプロの殺し屋集団との…

「リボーン」F・ポール・ウィルスン

「ナイトワールド・サイクル」6部作の第4部。最終作「ナイトワールド」の壮絶なるクライマックスへ向けて、再び善と悪との闘いの火蓋が切られる。稀代のストーリーテラー、ウィルスンの筆致は益々冴えわたり、後半の序章に過ぎない本作も一気に読ませる。非…

「恐怖の限界」ウィリアム・P・マッギヴァーン

名作「明日に賭ける」や一連の悪徳警官もので知られるマッギヴァーン1953年発表のスリラー。イタリア・ローマを舞台に、冷戦下で展開する謀略の渦中へと自ら身を投じていくアメリカ人マーク・レイバーンの闘いを活写する。イタリアでの仕事を終えた建築技師…

「まるで天使のような」マーガレット・ミラー

ミラー1962年発表作。 辺境で自給自足の生活を送り、俗世間との接触を閉ざした新興宗教団体「天国の塔」。私立探偵クインは尼僧の一人から依頼を受け、オゴーマンという名の男の行方を調べるが、5年前の嵐の夜、川に転落したオゴーマンの車が発見され、たま…

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン

北欧ミステリ全盛の礎を築いた大ベストセラー。作者が出版前に急死するという悲劇的な要素も作品評価へのプラス材料となったのだろう。本書は3部作として世に出た内の1作目だが、私は世評ほどの面白さを感じなかった。 最大の難点は、冗長過ぎるということ…

「その女アレックス」ピエール・ルメートル

暗黒小説の真髄を見せ付ける大傑作。席巻する北欧ミステリは確かに優秀な作品は多いのだが、フランス・ノワールの伝統を継ぎつつ極めて現代的なアプローチを試みた本作を前にしては翳んでしまう。骨格は極限的な状況におかれた一人の女の謎を解き明かす警察…

「灰色の栄光」ジョン・エヴァンス

ストレートなハードボイルドが楽しめる佳作。発表は1957年。ハメットやチャンドラーの影響が色濃く残っていた時代で、ストイックでタフな男が卑しい街で謎に満ちた犯罪を暴いていく。主人公はシカゴの私立探偵ポール・パインで、所謂「栄光シリーズ」4部作の…