海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「私が愛したリボルバー」ジャネット・イヴァノヴィッチ

実は本作について語ることはあまりない。躍動感溢れる女性バウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の活躍を気軽に楽しめばよく、「重い小説」を読んだ後のブレイクにぴったりだ。負けん気が強く猪突猛進型、仕事も恋愛もひたむきだが、もろく傷つきやすいという等…

「眠れる美女」ロス・マクドナルド

1973年発表リュウ・アーチャーシリーズ第17作。錯綜する謎は終盤に向かうほど乱れ縺れていく。ラストシーンで暗鬱なる真相へと辿り着いたアーチャーは、ひとときの安らぎの中で眠る娘の額に口付ける。美しくも哀しい、心に残る幕引き。ミステリ史に残る傑作…

「解錠師」スティーヴ・ハミルトン

評判が良いのも納得のミステリで、スティーヴ・ハミルトンの才気を感じる秀作。或る事件から失語症となった少年が、図らずも金庫破りとして犯罪グループの一員となり、さまざまな経験を通して大人へと成長していくさまを鮮やかに描き出している。内的な台詞…

「愚者が出てくる、城寨が見える」ジャン=パトリック・マンシェット

裏社会の闇で身悶える者どもの情動を切り詰めた文体でクールに描き切るロマン・ノワールの雄マンシェット1972年発表作。マンシェットは推敲を重ねる完全主義者の面もあったらしく、作品数も限られている。単に冗長なだけの小説にはない張り詰めた緊張感がみ…

「裁くのは俺だ」ミッキー・スピレイン

1947年発表、ミッキー・スピレインの処女作にして、以降ハードボイルド談議の場では必ず遡上に載せられることとなる、或る意味記念碑的問題作。一読後、妙に感心したのはスピレインが必死になって謎解きを押さえたミステリを創作しようと苦心していることだ…

「法王の身代金」ジョン・クリアリー

1979年発表作でスリラーの王道ともいうべき作品。重要な章の末文で一気に物語が変転する構成で、未曽有の犯罪に手を染めた者どもを襲う危機をテンポ良く描いていく。メインプロットは、資金源としてヴァチカンの財宝を狙ったIRAのシンパとプロの犯罪者らが、…

「二流小説家」デイヴィッド・ゴードン

ミステリへの愛に溢れた秀作で、ゴードンの才気溢れる筆致が堪能できる。売れない小説家ハリーを主人公に一攫千金のチャンスを掴みながらも、一筋縄ではいかない壁をどう乗り越えるかという展開がとにかく読ませる。メインプロットとは直接関係ないものの、…

「ボストン、沈黙の街」ウィリアム・ランデイ

練られたプロットで、結末の衝撃性も高い。片田舎の警察署長の座を父親から継いだ若者ベンを主人公とする一種の教養(成長)小説でもあるのだが、ランディは大胆な捻りを加えており、章を追うごとにベンの凡庸性が修整されていく展開は見事だ。一人称のスタ…

「バイオレント・サタデー」ロバート・ラドラム

ラドラム畢生の傑作「暗殺者」を読み終えた時の感動は忘れられない。綿密に練り上げた謀略を主軸に、記憶を失った男のアイデンティティを巡るストーリーは、娯楽小説の到達点ともいうべき作品だった。当然の事、大きな反響を呼んで80年代に多くの作品が翻訳…