海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「第五の騎手」ドミニク・ラピエール/ラリー・コリンズ

物語序盤、ニューヨーク市内に核爆弾を仕掛けた男が、米国大統領に向かって言う。「日本の民間住民の上にこの種の爆弾を投下したとき、あなた方自身が行ったのと同じ行為なのだ。あのときのあなた方の慈悲や憐れみの心はどこにあったのかね? 相手が白い肌を…

「キャリー」スティーヴン・キング

1974年発表、キングの実質的デビュー作。自身の創作術を述べた「書くことについて」(2000年)の中で、「キャリー」以前にバックマン名義の長編を上梓していたことを明かしているが、本作から〝モダンホラーの帝王〟の快進撃が始まったことは間違いない。売…

「ウインターホーク」クレイグ・トーマス

アメリカ空軍少佐ミッチェル・ガントを主人公とする1987年発表作。トーマスの出世作にして代表作「ファイアフォックス/ダウン」では、ソ連に潜入し最新鋭戦闘機を盗み出すミッションを遂行している。 大幅な軍縮条約調印を目前に控えた米ソは、両国スペース…

「フィッツジェラルドをめざした男」デイヴィッド・ハンドラー

ゴーストライターのスチュワート・ホーグシリーズ、1991年発表の第3弾。今回の依頼は、フィッツジェラルドの再来と謳われた新進気鋭の小説家キャメロン・ノイアスの回想録。大学時代に執筆した処女作が大きな反響を呼び、華々しいデビューを果たすものの、…

「ひとたび人を殺さば」ルース・レンデル

1972年発表、レジ・ウェクスフォード警部シリーズの一作。本作が日本初紹介となり、そのあと飜訳された心理サスペンス「ロウフィールド館の惨劇」(1977)で、人気に火が付いた。一時期のレンデル・ブームは凄まじく、新たな女流推理作家の登場に、ミステリ…

「ベルリン空輸回廊」ハモンド・イネス

1951年発表、冒険小説界の雄イネスの力作。巨匠として安定した評価を得ている作家だが、代表作が定まらない〝不遇〟さもあって、比較的地味な存在に甘んじている。本作も知名度は低いものの、プロットが意外性に満ちており、中盤までは抜群に面白い。残念な…

「ただでは乗れない」ラリー・バインハート

1986年発表、ニューヨークの私立探偵トニイ・カッセーラシリーズ第1弾。イタリア系の元警官で、ジャンキーだった過去を持つ。企業買収によって成り上がった男の顧問弁護士殺害の真相を追うというストーリーだが、構成がすっきりとせず、数多い登場人物も整…

「冷血の彼方」マイケル ・ジェネリン

2008年発表作。スロヴァキアの女性警察官ヤナ・マティヴァノの活躍を描く。作者は米国人。興味深い舞台設定だが、近年稀に見る〝衝撃的〟作品で、どう伝えるべきか迷う。つまり、読み終えても、どんな粗筋なのか、説明することができない。ネタバレを避けて…

「駆逐艦キーリング」セシル・スコット・フォレスター

読み終えて、ようやく気付いた。孤独な中年男の滲み出るような〝悲哀〟を描くことこそが、本作のテーマだったのだと。ホーンブロワーシリーズで著名なフォレスター1955年発表作。極めてストレートな海洋戦争小説だが、極めて異色の教養小説でもある。1941年…

「黒衣の女」スーザン・ヒル

たいした心境の変化など無いのだが、最近はホラー/幻想小説に以前よりも手を伸ばすようになった。他のカテゴリに比べてさほど読んでこなかったこともあるが、ラヴクラフトの箴言「最も起源が古く、 最も強烈な感情である恐怖」を主題とする小説の真髄に、あ…

「ライブラリー・ファイル」スタン・リー

1985年発表、東西冷戦末期に誕生した〝究極〟のスパイ/国際謀略小説。中盤まではスローペースだが、後半から一気にボルテージを上げ、終幕まで疾走する。 東西ドイツを隔てる国境線近くに集結していたソ連の最新鋭戦車。その不穏な動きを、米国政府が新設し…