海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ウインターホーク」クレイグ・トーマス

アメリカ空軍少佐ミッチェル・ガントを主人公とする1987年発表作。トーマスの出世作にして代表作「ファイアフォックス/ダウン」では、ソ連に潜入し最新鋭戦闘機を盗み出すミッションを遂行している。

大幅な軍縮条約調印を目前に控えた米ソは、両国スペースシャトルを使った宇宙空間でのセレモニーを予定する。一方、権力失墜に危機感を抱いたソ連軍部の一幹部は、秘密裡に締結阻止のための謀略をめぐらしていた。宇宙機にレーザー砲を搭載、ドッキング直前に相手国シャトルを破壊し、戦争への道を開くという極めて大胆な計画だった。バイコヌール宇宙基地で技師として働く米国スパイがその証拠を掴む。だが、記録を入手するためにはカザフスタンに潜入して男を脱出させることが不可欠となった。アメリカは密かにソ連製軍用ヘリを奪取し、ガントをリーダーに据えた潜入工作をスタートさせる。タイムリミットが迫る中、熟練パイロットを襲う危機は、予測を遥かに超え、孤立無援の戦いを強いられていく。

トーマスは、練り込まれた緻密なプロットよりも、個々の工作員に重点を置いた活劇を得意とする作家だ。つまり、スパイ/冒険小説の真髄をシャープに伝える半面、本編のボリュームが増すほどに構成力の弱さが目立ってしまう。本作も同様で、臨場感豊かなアクションシーンは流石だが、シンプルな筋の割りには長大なストーリーが展開するため、繰り返される「冒険」がパターン化され、徐々に慣れていく。トーマスの場合は、行動/心理描写が単調なため、それがより顕著になるのである。スパイ/冒険小説に限ったことではないが、必然性も無く、単に〝水増し〟しただけのミステリの氾濫には辟易している。私の経験上、贅肉を絞り、構成美にこだわった密度の濃い小説こそ、満足度が高い。
といっても、無骨ながらも熱い男たちの物語を、生涯にわたり創作し続けたトーマスを、決して嫌いにはなれないのだが。

評価 ★★☆☆

ウィンターホーク〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ウィンターホーク〈上〉 (扶桑社ミステリー)

 

 

ウィンターホーク〈下〉 (扶桑社ミステリー)

ウィンターホーク〈下〉 (扶桑社ミステリー)