海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「盗聴」ローレンス・サンダーズ

あとに「大罪シリーズ」で著名となるサンダーズ、1970年発表のデビュー作。ニューヨークを舞台に大胆不敵な犯罪の顛末を描く。ミステリの定型を打ち破る実験的な意欲作であり、犯罪小説の手法を一変させる革新性をも内包する傑作だ。 不法侵入罪で投獄され、…

「9本指の死体」ジャック・アーリー

サンドラ・スコペトーネの別名義による1988年発表作。〝女性作家〟という読み手の先入観を嫌い異性のペンネームとしたのかもしれないが、本作はどこまでも女性的な視点/トーンに包まれている。原題は「ドネートと娘」。父親と同じ警察官の道を歩んだ娘がコ…

「エースのダイアモンド」マーク・ショア

私立探偵レッド・ダイアモンドを〝主人公〟とする第2弾で1984年発表作。デビュー作「俺はレッド・ダイアモンド」(1983)は、趣向を凝らした設定とノスタルジックなムード全開でハードボイルド・ファンの喝采を浴びた。シリーズのコンセプトは明確で、1930…

「カーリーの歌」ダン・シモンズ

「この世には存在することすら呪わしい場所がある。……カルカッタはこの世から抹殺されるべきなのだ。」一行目から意表を突くモノローグ。この暗鬱で過激な序幕から、どう物語を展開するのか。当時は未知であった小説家の技倆に、間もなく読み手は瞠目するこ…

「サブウェイ123/激突」 ジョン ・ゴーディ

1973年発表のクライム・サスペンスで、大胆不敵な犯罪の顛末を多面的視点で描く。スピード感に満ちた展開は極めて映像的で、三度にわたって映画化もされている。犯人と警察の知恵比べ/攻防を主軸とせず、事件の当事者以外の第三者的人々の行動、社会への影…