海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「六人目の少女」ドナート・カッリージ

イタリア発、2009年発表作。二重三重の捻りを効かせたサイコ・サスペンスで、世評は概ね高いが、どうにもすっきりとしない読後感だった。 未解決のまま時が流れていた某国W市の連続少女誘拐事件。その生死さえ不明だったが、山中から切断された六人の左腕が…

「アムトラック66列車強奪」クリストファー・ハイド

1985年発表、ハイド渾身の快作。北米回廊線の列車から現金強奪を目論んだ新米の犯罪者グループが、よりによって同じ目的で乗り込んだテロリスト集団と鉢合わせする。このアイデアだけで〝買い〟である。しかも、冒険小説の傑作「大洞窟」の作者だ。面白くな…

「戦場の画家」アルトゥーロ・ペレス・レベルテ

沖に向かって泳ぐ一人の男……これが幕開けと終幕の場景となる。物語の中で、時間はゆっくりと流れている。静寂と孤独。変わらないのは、それだけだ。ラストシーンで、読み手は冒頭と同じ男をそこに視ることはない。何故、海を目指したのか。何が、変わってし…

「悪魔のワルツ」フレッド・M・スチュワート

恐怖心を煽る。簡単そうで難しい。海外のホラー/幻想小説で、その世界観や技巧に感心することはあっても、心底震え上がるような読書体験は稀だ。〝超常現象〟や〝神と悪魔〟など所詮は絵空事に過ぎず、結局は「人間が一番怖い」という可愛げのないスタンス…

「彼女のいない飛行機」ミシェル・ビュッシ

タフでなければ、海外ミステリ・ファンではいられない。例え、本の値段に怖じ気付こうと、千ページを軽く超す大作であろうと、出版社や批評家の惹句に踊らされようと、原文を生かさない飜訳に違和感を覚えようと、作者の狡猾な術中に翻弄されようと、序盤早…