海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「蒸発した男」マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー

1966年発表のマルティン・ベックシリーズ第二弾。スウェーデン社会の変遷を描いた警察小説の古典として高い評価を得ている全十部作だが、初期作品は極めて地味な捜査活動を描くことに終始している。 著名なスウェーデン人ジャーナリストがハンガリーで行方不…

「フランクリンを盗め」フランク・フロスト

何度か挫折しかけ、途中で放り出すつもりだった。冒頭から既に破綻しかけている物語が、絶望的につまらないからだ。だが、駄作であれば何が駄目なのか、それを明確にするつもりで我慢して読み進める。終盤まで辿り着いたところで、ようやく合点がいく。この…

「影たちの叫び」エド・ゴーマン

私立探偵ジャック・ドゥワイアを主人公とする1990年発表作。このシリーズは本作のみ翻訳されており、ゴーマンの他の作品も僅かな紹介しかなされていない。アメリカ社会の底辺に生きるホームレスが絡む犯罪を描くプロットは、シンプルで地味な印象。だが、凍…

「ネオン・タフ」トニー・ケンリック

中国返還前の香港を舞台に、麻薬密売組織摘発に動くDEAエージェント/ ヒュー・デッカーの型破りな活躍を描いたトニー・ケンリック1989年発表作。本作を最後に翻訳は途絶え、才人ケンリック自身の創作活動も休止しているようなので残念だ。ミステリにスラッ…

「ブリザードの死闘」ボブ・ラングレー

粗削りながら良くも悪くもラングレーならではの魅力に満ち溢れる1988年発表作。イングランドとアルゼンチンのフォークランド紛争(1982年)に端を発する確執を背景に、真冬のスコットランド沿岸部で密命を帯びたアルゼンチン特殊工作班の任務遂行を描く。 紛…

「悪意の波紋」エルヴェ・コメール

フランス・ミステリ再評価の気運を更に後押しする秀作。絵画強盗にまつわる犯罪が40年の時を経て予想外の様相を呈していくさまを、ドラスティック且つアイロニカルに描く。 語り手は二人。一人は、過去に「大仕事」をした以外は、しがないギャングとして半生…