海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2018-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「クメールからの帰還」ウィルバー・ライト

1983年発表作。カンボジア奥地の谷に墜落した旅客機の生存者がサバイバルを経て生還するまでを描く。奇跡的に生き残った四人は、元英国空軍パイロットの主人公、客室乗務員のカンボジア国籍の女、十代の少年少女二人。彼らは行き着いた米軍の飛行場で放置さ…

「マギの聖骨」ジェームズ・ロリンズ

疾風怒濤の勢いでスリラー界に名を馳せるロリンズの「シグマフォース・シリーズ」〝第1弾〟。全編クライマックスという表現が相応しく、加速度的に疾走するストーリーには圧倒される。冒頭から結末まで凄まじい量の情報を盛り込みながら、破綻することなく…

「死よ光よ」デイヴィッド・グターソン

人生の光芒を鮮やかに切り取るグターソン1998年発表作。自らの死と直面した老境の男が、その最後となる「旅」の途上で、様々な境遇の人々と出会い、別れていくさまを情感豊かな筆致で描いている。重い主題を扱いながらも、真っすぐなヒューマニズムを謳い上…

「レリック」ダグラス・プレストン、リンカーン・チャイルド

いわゆるモンスターパニックもので、娯楽性を重視し、プロットや描写に映画的手法を豪快に取り込んでいる。というよりも、同系統映画からの強い影響のもとに創作したのだろう。真相が明かされるエピローグこそ、本作の肝なのだが、スピード感溢れる筆致で冒…

「狐たちの夜」ジャック・ヒギンズ

ヒギンズは過去の作家として忘れ去られつつあるが、「鷲は舞い降りた」や「死にゆく者への祈り」が、今後も色褪せていくことはないだろうし、代表作を読めば事足りるという薄い存在でもない。本作のようにいささか強引な筋書きであろうとも、独自に構築して…

「九回裏の栄光」ドメニック・スタンズベリー

1987年発表作。都市再開発を巡る政治家・企業家の腐敗/犯罪を描いたノワールタッチの骨太な犯罪小説。タイトルからイメージする野球を軸にしたスポーツ・ミステリではない。舞台は、米国地方都市ホリオーク。フリーの記者ロフトンは、マイナーリーグ所属の…

「サイコ」ロバート・ブロック

ヒッチコックの映画化によりブロックを一躍著名にした1959年発表作。残虐な殺人シーンのインパクトでホラーのイメージが強いが、原作はサイコスリラーの先駆として評価が定着している。異常殺人者を主役格に置き、狂気へと墜ちていった背景を解き明かす〝サ…

「悪魔のような女」ボアロー、ナルスジャック

1952年発表作。数度の映画化もあり、ボアロー/ナルスジャック合作の中で最も読まれている作品と言っていい。サスペンス小説の模範ともなる構成で、次第に追い詰められていく人間の心理描写は流石の筆致だ。登場人物を必要最低限まで絞り込み、緊張感が途切…

「白の海へ」ジェイムズ・ディッキー

ミステリではないが、根幹には冒険小説のテイストがあり、予測不能の展開もあって強烈な印象を残す。 日米戦争末期、焼け野原と化していく東京でB29型爆撃機が墜落する。投げ出された機銃兵マルドロウは奇跡的に命拾いするが、敵国にただ一人取り残される。…