海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「クメールからの帰還」ウィルバー・ライト

1983年発表作。カンボジア奥地の谷に墜落した旅客機の生存者がサバイバルを経て生還するまでを描く。奇跡的に生き残った四人は、元英国空軍パイロットの主人公、客室乗務員のカンボジア国籍の女、十代の少年少女二人。彼らは行き着いた米軍の飛行場で放置されたダコタDC-3を発見。四方を崖に囲まれた地から脱出するためには、飛行機を修理して飛び立つ以外になかった。

派手さは無いが、冒険小説のエッセンスを適度に詰め込んで仕上げている。ただ、何もかもが上手く運び過ぎるプロットの甘さが目立つ。物語のプロローグでは全員が無事に帰国していることを示しており、緊張感に欠けるのは構成上仕方が無いとはいえ、早々に快適な居住と食を手に入れ、恋愛の要素も盛り込んで、大半が牧歌的なムードの中で進行する。果ては、野性の象を飼い慣らして、危機を乗り越えていく。冒険小説においては、或る種のロマンは不可欠だが、それは限界状況があってこそ輝くのである。元パイロットの男は二度と操縦桿を握れないほどのトラウマを持つという設定だが、その弱さが緩く、克服の過程が心に響いてこない。

評価 ★★

クメールからの帰還 (角川文庫)

クメールからの帰還 (角川文庫)