海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2023-05-17から1日間の記事一覧

「気狂いピエロ」ライオネル・ホワイト

フランス映画/ヌーヴェルヴァーグ「気狂いピエロ」(ゴダール監督/1965年公開)の原作で1962年発表作。原題は「Obsession」で妄執/強迫観念を意味する。ホワイトは本作を含めて僅か3作しか翻訳されておらず、他の2作は入手困難なため、作風などの全体像…

「チェシャ・ムーン」ロバート・フェリーニョ

惹句にはハードボイルドとあるが、サスペンス基調のミステリという印象。主人公クィンは元新聞記者で現在はゴシップ誌のライター。元妻とは友達付き合いを続けており、同じ敷地内にある離れで暮らしながら、幼い一人娘の寝姿を裏庭の木から見守る日々。そん…

「鋼の虎」ジャック・ヒギンズ

「山脈の向こうの空は群青色と青に染まり、太陽がゆっくり昇ってくるにつれ、万年雪の上に黄金色の輝きが拡がった。眼下の谷は暗く静まりかえっていて、聞こえるものといえば、チベットへの迷路をたどるビーヴァー機の、低く、絶え間ない唸りだけだった」静…

「陸橋殺人事件」ロナルド・A・ノックス

本職は聖職者という異色の作家で、創作上のルールを定義した「ノックスの十戒」でミステリファンにはお馴染みだろう。創作期間は10年と短く、本人の意志に反して、教会など身内の抵抗にあって断筆に追い込まれたらしい。環境に恵まれなかった不運なノックス…

「ヘッドハンター」マイケル・スレイド

スレイドはカナダの弁護士三人(本作以降、共同執筆者は変わっている)による合作チームのペンネームで、1984年発表の本作でデビューした。フォーマットは警察小説だが、サイコスリラーの要素を大胆に盛り込んでおり、全編が異様なムードに包まれている。不…