海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ヘッドハンター」マイケル・スレイド

スレイドはカナダの弁護士三人(本作以降、共同執筆者は変わっている)による合作チームのペンネームで、1984年発表の本作でデビューした。フォーマットは警察小説だが、サイコスリラーの要素を大胆に盛り込んでおり、全編が異様なムードに包まれている。

不特定の若い女を狙った連続殺人。被害者に目立った共通点や接点は無かったが、殺人者は犯行後に首を持ち去っていた。連邦警察機構のディクラーク警視率いる特別捜査本部は、各分野の俊鋭を隊員として招集し、異常犯罪者らの洗い出しを始める。犯行は止まることなく、殺人者から挑発のメッセージも届く。やがて浮かび上がってきたのは、ハイチ発祥のブードゥー教にまつわる黒魔術で、殺人鬼が個人ではない可能性も出てきた。その後も一向に捜査は進まず、過去に妻子を惨殺されるというトラウマを抱えていたディクラークの精神状態は悪化していく。

どうにも良くない。サイコスリラーと捜査小説のごった煮で、読み手はかなり苦戦を強いられるだろう。章立ては短いが、無駄に登場人物が多く、しかも時代や場面が頻繁に飛ぶため、テンポ良く読み進めることが難しい。文体も一貫性がなく、ゴシック体なども意味なく多用する。合作の弊害故か構成も粗い。伏線らしきものを大量に挿入しているのだが、殆どは回収されることはなく、単にエキセントリックなカオスだけが印象付けられていく。情報は整理されないまま散らばり、状況が分かりづらい。一応ディクラークを主人公に据えてはいるものの、視点のブレが激しいため物語の軸が安定しない。文体は異常心理と幻想が織り交ぜになっており、しかも主役級の刑事まで心的外傷によって暗鬱としたエピソードを繰り返すため、タチが悪い。真相には捻りを加えてはいるが、この人物が真犯人だろうという察しはつくため、衝撃度は弱い。

マイケル・スレイドについては、先に「髑髏島の惨劇」を読んでおり、異色の本格ミステリとして読後感は悪くはなかったため、本作も期待して読み始めたのだが、どうやら出来不出来は激しいようだ。

評価 ★★