海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「国王陛下のUボート」ダグラス・リーマン

海洋戦争小説の王道をいく1973年発表作。臨場感溢れる戦闘シーン、数多い登場人物一人一人をきっちりと印象付ける卓越した造形、滋味豊かで多彩なエピソードなど、ベテラン作家の本領を遺憾なく発揮した力作だ。 1943年、第二次世界大戦の転機となった連合軍…

「バスク、真夏の死」トレヴェニアン

寡作ながらも完成度の高い作品を発表し続けた覆面作家トレヴェニアン。1983年上梓の本作は、バスク地方の避暑地を舞台に、たったひと夏、主人公にとっては人生一度きりの激しい恋愛の顛末を、どこまでも甘美に、どこまでも残酷に描いた傑作だ。 原題は「カー…

「東の果て、夜へ」ビル・ビバリー

2016年発表作。内外で高い評価を得ており、犯罪小説/ロードノベル/少年の成長物語と、様々な読み方ができる作品だ。全編を覆う青灰色のトーン、凍てついた冬を背景とする寂寞とした空気感。筆致はシャープで映像的。主人公の心の揺れを表象する内省的な情…

星の断想

仕事帰り。駐車場に車を停め、少し離れた住居に向かう途上で、しばらく空を見上げるのが日課となっている。私の住む田舎では今でも満天の星を仰ぐことができるのだが、幼い頃に飽きもせず眺め続けた星空とは、随分と変わってきたように思う。 それは、汚染さ…

「パルプ」チャールズ・ブコウスキー

1994年発表、無頼派と呼ばれたブコウスキーの遺作。米国で1920~50年代に流通した安価な大衆雑誌「パルプ・マガジン」へのオマージュであり、台詞やシーンは過剰なまでの〝安っぽさ〟で貫いている。テイストはハードボイルドだが、登場人物もストーリーもま…

「冬の棘」ウィリアム・D・ピース

1993年発表作。奇をてらわずに情景をじっくりと描いていく作風のため、派手さはないが、重量感のある作品に仕上がっている。 若くして大手建設会社社長の座を継いだクーパー・エイヴァリー。その妻が、ワシントン郊外の自宅で殺された。事件当夜、夫は出張で…