海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「パルプ」チャールズ・ブコウスキー

1994年発表、無頼派と呼ばれたブコウスキーの遺作。米国で1920~50年代に流通した安価な大衆雑誌「パルプ・マガジン」へのオマージュであり、台詞やシーンは過剰なまでの〝安っぽさ〟で貫いている。テイストはハードボイルドだが、登場人物もストーリーもまともではない。主人公は、やさぐれた私立探偵ニック・ビレーン。一時間6ドルは、恐らく探偵史上最低の料金だろう。実質、能力に見合っており、妥当ではある。

依頼人は、正体不明の男の他に、死に神や宇宙人の女。案件は、単純な浮気調査の他に、物故したはずのフランス人作家の探索や存在しない赤い雀の捕獲。探偵は、事務所や酒場からほとんど動かず、常に酒を呑んでいる。訳の分からない依頼が次々に舞い込むが、仕事をこなすことよりも競馬に頭を使い、あげくは無能なヤクザにさえカネを騙し取られていく。

奇人や変人、異星人らが織り成す馬鹿騒ぎ、SF的な結末へと至る緩すぎるプロット。幕切れは「悲哀に満ちている」と受け止められないこともないが、意味深長なコンセプトを求めること自体が誤っているのだろう。
意味の無いことを、意味の無いまま描く。何故か、文学畑の批評家らは、こういう作品を有り難がるのだが、一般読者が物語に付随する面白さや価値を見出すことは至難の業だろう。深読みは私の悪い癖だが、流石に本作では無理だ。ただ、全てを偽物、偽善だと嗤うかの如き痛烈な批判精神、作家の投影でもある男の死にさえも虚無感/アイロニーを付け加えるブコウスキーは、どこまでも「文学的」な輩であったのは間違いない。くだらない、と呟いて本を閉じる。それこそ、この作家の本望だと感じた。

評価 ★★

パルプ (ちくま文庫)

パルプ (ちくま文庫)