海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「薔薇の名前」ウンベルト・エーコ

まず極論的な自論を述べれば、ミステリという薄いコーティングを施した糞長く退屈な「教養小説」であり、キリストの教義やあらゆる差別/横暴が罷り通ったヨーロッパ中世史に興味が無ければ、全く面白みのない作品である。 物語は、中世イタリアの修道院を舞…

「追いつめられた男」ブライアン・フリーマントル

元英国諜報部員チャーリー・マフィンが7年間に及んだ逃亡生活に終止符を打ち、新たな展開へと向かう1981年発表のシリーズ第5弾。これまでと同様の緊張感を保ちつつ、後戻り出来ない闘いへと赴く孤独な男を活写する。人物造形の巧みさについては改めて述べ…

「アメリカン・タブロイド」ジェイムズ・エルロイ

1995年発表、「アンダーワールドUSA」三部作の第一弾。アメリカ現代史の闇をエルロイ独自の史観と切り口で描いた野心作だが、拡げた大風呂敷の上に混沌の種子を散乱させたまま強引に物語を閉じているため、結局は収拾がつかずに投げ出した感がある。本作…

「白い国籍のスパイ」J・M・ジンメル

1960年発表、オーストリア人作家による独創的且つユニークなスパイ小説。恐らくジンメルは、ナチスドイツなどの非人道的蛮行を間近で見ていたはずだが、その実態をストレートに表現するのではなく、戦争の無意味さと、先導者/煽動者らの愚昧さを徹底したア…