海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「シンプル・プラン」スコット・スミス

スティーヴン・キングが絶賛したこともあり、発表当時はかなり話題となった。ミステリ界の大物らが推薦するものは大抵が眉唾物なのだが、本作については妥当といえる。筋立てはいたってシンプルだが、強欲に溺るままに狂気の淵まで墜ちていく人間のあり様を…

「チャーリー・ヘラーの復讐」ロバート・リテル

スパイ小説「ルウィンターの亡命」で知られるリテルの秀作スリラー。 CIAで暗号解読を専門にするヘラーの婚約者がミュンヘンのアメリカ総領事館を襲ったテロリスト3人によって殺される。ヘラーは上層部に報復を直訴するが不可解にも却下されてしまう。諦め切…

「理由」ジョン・カッツェンバック

冒頭で引用されたアフォリズムが、本作の全てを表している。 「怪物と闘おうとするものは、自身が怪物にならないように用心すべきである。奈落の底を覗くものは、奈落の底から覗かれるのである」フリードリヒ・ニーチェ 「地獄の道に敷きつめられているのは…

「極夜〈カーモス〉」ジェイムズ・トンプソン

49歳の若さで急逝したジェイムズ・トンプソンのカリ・ヴァーラ警部シリーズ第1作。時にオーロラが出現するフィンランド最北部の田舎町を舞台に、ヴァーラの近親者らをも巻き込んだ陰惨な連続殺人事件の顛末を描く。 タイトルにもなっている極夜〈カーモス〉…

「聞いてないとは言わせない」ジェイムズ・リーズナー

世評は高いようだが、どこといって魅力を感じなかった犯罪小説。とはいえ、テンポ良く最後まで一気に読ませてしまうのだから、筆力は確かにあるのだろう。 謎に満ちた若い男が、人里を離れて身を隠すように農業を営む40代の女を訪ねる。数週間、仕事を手伝う…

「野獣の街」エルモア・レナード

レナード1980発表の作品。デトロイト警察の警部補レイモンド・クルースを主人公に、法の穴をかいくぐり殺人を重ねる悪党クレメント・マンセルとの対決を描く。クルースをはじめ、活きのいい刑事群像が本書の最大の魅力で、数か月にわたり同警察を取材したと…

「黒いカーテン」ウィリアム・アイリッシュ

アイリッシュ1941年の作品。極めてモダンなスリラーであり、濃密なサスペンスを堪能できる。 会社帰りに崩れ落ちてきた瓦礫を身体に受け、意識不明の状態から回復した男。名は、フランク・タウンゼント。ようやく家へと帰り着くが、今朝、男を見送ったはずの…

「ミス・クォンの蓮華」ジェイムズ・ハドリー・チェイス

クライムノベルの雄、ハドリー・チェイス 1960年発表の作品。 舞台は、ゴ・ジン・ジェム政権下のベトナム・サイゴン。所謂「ベトコン」が本格的なゲリラ活動を始めた時期で、当時の不安定な状況が物語に巧く活かされている。 本筋は、或る将軍が隠し持ってい…

「悪どいやつら」アンソニー・ブルーノ

FBIの〝はみだし捜査官〟マイク・トッツイとバート・ギボンズの活躍をハードボイルド・タッチで描いた傑作。 マフィア組織に潜入した囮捜査官3人の正体が、内通者によって暴かれ惨殺される。悪玉なら殺しも厭わない猪突猛進型のトッツイは、FBI内に潜む裏切…

「スパイになりたかったスパイ」ジョージ・ミケシュ

ミケシュは、英国に帰化したハンガリー生まれの社会批評家で、日本に関する著作もある。本書は唯一のフィクションらしく、スパイの世界を茶化したファースとなっている。 ソ連の人々の飢餓を救う「夢の食品」の製造法を入手すべく英国へ送り込まれた主人公。…

「火刑法廷」ジョン・ディクスン・カー

ミステリ史上に残る傑作。 この作品最大の魅力は、人間消失などの複雑怪奇な謎の論理的解決と同時に、相反する非論理的なオカルティズムを融合させ、見事に成立させてしまったところにある。 エピローグを読み終え、ゾッとする悪寒を覚える読者を想像してほ…

「墓場への切符」ローレンス・ブロック

「人生を考える者には喜劇であり、感じる者には悲劇である、と誰かが言うのを聞いたことがある。私には人生は喜劇であると同時に悲劇であるように思われた。考えることも中途半端な者にとっては」現代ニューヨークを舞台に無免許探偵マット・スカダーが奔走…

「きず」アンドニス・サマラキス

ある街のカフェで酒を飲んでいた1人の男が、特高警察に逮捕される。反政府運動組織の人間が、そこで接触するとの密告があったからだ。怪しいやり取りで密会を果たした様子の2人。1人は逃亡中に死亡。あとの1人「〈カフェ・スポーツ〉の男」を捕らえるが…

「熱い街で死んだ少女」トマス・H・クック

舞台は、1963年の米国アラバマ州バーミングハム。マーティン・ルーサー・キングが指導する公民権運動が勢いを増す中、ある黒人少女が殺された事件を市警本部のベン・ウェルマン部長刑事が捜査する。ミステリとしての謎解きはあくまでも添え物で、本作の主題…

前口上

ミステリを愛読して二十数年経つ。本ブログには、2014年8月頃から新旧問わず読み続けた海外ミステリのレビューを掲載している。いわゆる古典的な推理小説や、メジャーな作品が少ないのはそのためで、それ以前に読んだ本については、再読などしながら改めて…