海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2023-01-01から1ヶ月間の記事一覧

私的なお知らせ〜JAZZ TIME〜

私のもうひとつの趣味であるジャズの名盤、名演を「TikTok」で紹介しています。毎日更新を目指していますので、ぜひ気軽にのぞいてみてください。※本記事下段に「雑記」を追加しました。【Jazz Time】https://www.tiktok.com/@kikyo_shimotsuki?_t=8ZQcZYato…

書評という「冒険談」

1月19日、「本の雑誌」創刊者で書評家の目黒考二氏が亡くなった。享年76歳。ミステリファンには、北上次郎の筆名の方が馴染み深いだろう。特に冒険小説の水先案内人としての貢献度は計り知れず、その魅力を熱く語り尽くした「冒険小説の時代」「冒険小説論…

「ハドリアヌスの長城」ロバート・ドレイパー

まず、北村治による文春文庫の挿画が、さまざまなイメージを喚起させる。 裂け目無く屹立する高く赤い壁。それは紛れもなく刑務所の塀だと分かる。そこに、斜陽を浴びた男の影が浮かび上がっている。背中を向け、うつむき加減に呆然と立つ男。それに比して、…

「夜の終わり」ジョン・D・マクドナルド

1960年発表作。当初、混同する筆名を用いたロス・マクドナルドとのエピソードで、名前だけが先行していた〝もう一人のマクドナルド〟。その本格的な紹介が本作から始まっている。当時の読者は、その実力に驚いたことだろう。このマクドナルドも凄いと。冒頭…

「銀塊の海」ハモンド・イネス

1948年発表作。冒険小説の王道を行くイネスらしい構成で、発端から結末まできれいにまとめ上げている。モチーフとしているのはスティーヴンソンの古典「宝島」。絶海の孤島(本作では巨大な岩礁に等しい)に眠る〝宝〟を巡る男たちの活劇を描いた代表作でも…

「スリーパーにシグナルを送れ」ロバート・リテル

未だ全貌が明らかではない歴史的事件を題材とする1986年発表作で、概ね評価は高い。曲者作家リテルならではのオフビートなスタイルによって、終盤近くまでどの方向へと流れていくのかが分からない。プロットの軸を敢えてぼかし、辿り着いた真相が最大限の衝…