海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

途中下車 〜海外ミステリ雑記帳〜

旅の途上でひと息入れた道すがら、どこまでも私的な海外ミステリの読み方について、その一端を脈絡のないままに記しておきたい。 ………………………………………………… 愛読する作家やシリーズは数多いが、一作品を読み終えた後は、しばらく距離をおくことにしている。集中し…

「旅の記録」としての海外ミステリ

海外ミステリや映画のレビューを綴られているブログ「僕の猫舎」のぼくねこさんが、この度「海外ミステリ系サイトのリンク集」をまとめられた。https://www.bokuneko.com/entry/2019/02/25/121721拙ブログも著名な方々と共に紹介して頂いており恐縮しきりな…

「雨を逃げる女」クリストフェール・ディアブル

1977年発表、仏推理小説大賞作。薄墨のような闇の中で展開するサスペンスは、フレンチミステリならではの味わいで、小品ながらノワールの香りも漂う。 主人公は、タクシー運転手のコール。雨の降りしきる夜、街を彷徨ったいた若い女を拾う。手には拳銃、語る…

「熊と踊れ」アンデシュ・ルースルンド/ ステファン・トゥンベリ

北欧ミステリ界の精鋭として脚光を浴びるルースルンドが脚本家のトゥンベリと共作したクライム・ノベル。読了後、スウェーデンで実際に起きた犯罪をもとにしており、トゥンベリが事件関係者の身内であることを知ったのだが、そこでようやく納得できた。実は…

「象牙色の嘲笑」ロス・マクドナルド 【名作探訪】

1952年発表、シリーズ第4作。新訳を機に再読したが、リュウ・アーチャーの精悍さに驚く。無駄無く引き締まったプロット、簡潔且つドライな行動描写、シニカルでありながら本質を突くインテリジェンス、人間の業を生々しく捉える醒めた視点、抑制の効いた活…

「ロンドン・ブールヴァード」ケン・ブルーエン

アイルランド人作家ブルーエンが、影響を受けた犯罪小説家らに捧げるオマージュ。一人称による切り詰めた文体、テンポ良く場景を切り替えていく映像的な手法で、シニカルでダークな世界を構築している。頽廃と昂揚、無情と熱情を対比させつつ、ノワールのエ…

「ハマースミスのうじ虫」ウィリアム・モール

長らくの絶版で「幻の名作」と喧伝された1955年発表の犯罪小説。一風変わった予測不能の展開は新鮮な面もあるが、今読めばやはり全体的に古い。証拠を残さずに恐喝を繰り返す男バゴットに憤慨した素人探偵デューカーが、独自に調査し、罠に掛け、自滅する間…

「夜歩く」ジョン・ディクスン・カー

執筆時25歳のカーが1930年に発表した処女作。いささか緩慢な構成や緻密さに欠ける仕掛け、浅い人物造形などに若さを感じるが、隆盛期にあったミステリの世界に新風を吹き込もうという気概に溢れている。後に開花する怪奇趣味や不可能犯罪への愛執にも満ちて…

「レイドロウの怒り」ウィリアム・マッキルヴァニー

1983年発表、グラスゴウ警察犯罪捜査課警部ジャック・レイドロウを主人公とする第2弾。前作「夜を深く葬れ」よりも更に硬質で濃密な文体となり、一文一文を読み飛ばすことが出来ない。一読しただけでは、重層的な修辞まで読み取ることは不可能だと感じた。…

「評決」バリー・リード

溢れ出る涙を抑えつつ、終盤二章を読み終えた。まさか、こんなにも感情を揺り動かされることになるとは、物語が大きな山場を迎えてのち、評決が下るシーンの直前まで、微塵も思っていなかった。万感胸に迫るラストシーンがさらに心を打ち、その後しばらくは…