海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「赤毛のストレーガ」アンドリュー・ヴァクス

〝アウトロー探偵〟バークシリーズ第2弾で、この後上梓した「ブルー・ベル」が日本でも大きな反響を呼んだ。幼児虐待をテーマに暗黒街の〝必殺仕事人〟らが活躍するという設定は斬新で、特に第1作「フラッド」は躍動感に溢れていた。特異な世界観で新たな…

「シカゴ・ブルース」フレドリック・ブラウン

1947年発表のフレドリック・ブラウンの処女作。主人公は、十代の若者エド・ハンターで、以降シリーズとして書き継がれた。シカゴの裏町で父親を殺されたエドが、伯父の協力を経て犯人捜しをする物語だが、プロットや謎解きに特筆すべき点はない。後にミステ…

「悪魔の収穫祭」トマス・トライオン

1973年発表のモダンホラー。タイトルにあるような〝悪魔〟が登場する超常現象を扱うのではなく、土着信仰の残る未開の村に移住した家族の恐怖体験を中心に描いていく。上下巻の長い小説だが、悪夢のような出来事が発生するのは終盤のみで、大半は独自のしき…

「深夜プラス1」ギャビン・ライアル 【名作探訪】

冒頭の1ページからラスト1行まで痺れる小説など滅多にあるものではない。冒険小説の名作として散々語り継がれてきた「深夜プラス1」だが、読者が年齢を重ねる程に味わい方も深くなる大人のためのエンターテイメント小説であり、陶酔感でいえば当代随一で…

「地底のエルドラド」ウィルバー・スミス

骨太な冒険小説で人気のウィルバー・スミス1970年発表作。南アフリカの金鉱山を舞台に、地底のエルドラド(黄金郷)を巡る男たちの熱い闘いを描く。主人公は鉱山の現場監督を任されている野心に溢れたロッド。部下からの信頼も厚く次期所長として有望株だっ…

「拳銃猿」ヴィクター・ギシュラー

スピード感に溢れるクライム・ノベル。ギャング組織の殺し屋集団に所属する男が抗争に巻き込まれ、ボスや仲間を守るために孤軍奮闘する。オフビートな展開でテンポ良く読ませるのだが、勢いのまま突っ走るため構成は荒い。その大味なところが本作の魅力でも…

「砂漠のサバイバル・ゲーム」ブライアン・ガーフィールド

才人ブライアン・ガーフィールドの1979年発表作。アリゾナの砂漠に、全裸で放り出された男女四人によるサバイバルを描く。その過酷な状況を招いた要因とは、殺人の罪に問われたネイティブアメリカンの男を、精神科の専門医四人の鑑定/証言によって精神病院…

「トラブルはわが影法師」ロス・マクドナルド

ロス・マクドナルド1946年発表の第2作。リュウ・アーチャー初登場の「動く標的」までの初期4作は、いわば習作的な扱いを受けて注目されることも少ないが、当然ロス・マクファンとしては無視することはできない。本作は、いわゆる〝巻き込まれ型〟スパイ小…

「ザ・カルテル」ドン・ウィンズロウ

本を持つ手が真っ赤に染まっていく錯覚に陥るほどの膨大な量の血が流れる。延々と繰り返される殺戮と虐殺。ウィンズロウは、いつ、どこで、誰が何人殺されたと丹念に書く。死者を積み重ね、カウントする。なぜ省くことなく、記録するのか。不毛の大地。対抗…

「ブラック・サンデー」トマス・ハリス

トマス・ハリス1975年デビュー作。以降は長期的にヒットしたサイコ・サスペンスのみ散発的に発表しているが、確実に売上の見込める〝ハンニバル・シリーズ〟に固執していることに拝金主義を感じてしまう。少なくとも「ブラック・サンデー」には、エンターテ…

「別れのキス」ジョン・ラッツ

1988年発表の私立探偵フレッド・カーヴァーシリーズ第三作、PWA最優秀長編賞受賞。カーヴァーは元警官で、足に銃弾を受けたのち、常に杖が手放せない障害者となっている。いわゆる〝ネオハードボイルド〟では、さまざまな障害やトラウマを持つ主人公が登場し…

「罠にかけられた男」ブライアン・フリーマントル

フリーマントルが小説巧者ぶりを発揮する1980年発表のチャーリー・マフィンシリーズ第4弾。希少なロシア皇帝の切手を餌に、狂的収集家のマフィアの首領を嵌める計画がFBIによって練られる。故意に盗ませて逮捕する目論みだったが、英国の保険会社への事前通…

「ウッドストック行最終バス」コリン・デクスター

幅広いミステリのジャンルの中でも「本格」と呼ばれる分野に、それ程の興味は無い。といっても、私がミステリ愛好家となったきっかけは、多分に漏れずエラリイ・クイーン「Yの悲劇」の絢爛たるロジックの世界に文字通り感動したからなのだが。要は物語とし…

「雪の狼」グレン・ミード

凍てついたロシアの墓地から始まる静謐なプロローグ。アメリカ人の男が40数年前にこの地で死んだ父親の〝二度目〟となる葬儀を見詰める。1953年の冷戦期、米国政府による極秘作戦。おぼろな回想が挿入され、未だその全容が解き明かされていないことが示され…

「Mr.クイン」シェイマス・スミス

第ニ作「わが名はレッド」もかなり強烈な内容だったが、シェイマスのデビュー作は過激さにおいて飛び抜けている。犯罪プランナーという一応の肩書が付いてはいるが、無辜のターゲットに対する主人公クインの非道ぶりは異常者と大差無く、己の悪魔的頭脳を駆…