海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「赤毛のストレーガ」アンドリュー・ヴァクス

アウトロー探偵〟バークシリーズ第2弾で、この後上梓した「ブルー・ベル」が日本でも大きな反響を呼んだ。幼児虐待をテーマに暗黒街の〝必殺仕事人〟らが活躍するという設定は斬新で、特に第1作「フラッド」は躍動感に溢れていた。特異な世界観で新たなヒーロー像を確立したヴァクスの登場は感動的ですらあったほどだ。だが、「…ベル」にいたると、バークの個人的な闘いに焦点が移り、社会的視野や構成力が弱まっている。元犯罪者/異端者の集まりに過ぎなかったバーク一味は、自警団としての質を帯びて自縄自縛に陥り、シリーズとしての限界も暗示していた。独自の「正義」を標榜する兆しを見せ始めているのが本作で、デビュー作にあった荒削りながらも爽快な物語性はもはや無く、無頼の徒としてのバークとその仲間の特異性のみが浮き上がっていく。依頼者となる「赤毛のストレーガ」の造形も、小児性愛者の心理面の掘り下げも浅く、混沌とした展開に終始している。さらに陰鬱なる「…ベル」の物語でヴァクスは暴走し、「フラッド」で構築した娯楽性を破壊した。第4作「ハード・キャンディ」冒頭での退廃感が全てを物語っている。
評価 ★★☆

 

赤毛のストレーガ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 189-2))

赤毛のストレーガ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 189-2))