海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2021-05-18から1日間の記事一覧

「老人と犬」ジャック・ケッチャム

ホラー小説界の異端児ケッチャムは、稀代の問題作「隣の家の少女」(1989)で精神的加虐性を極限まで抉り出し、読み手の度肝を抜いた異能の作家だ。1995年発表の本作は、そのイメージを引き摺ると肩透かしを食らう。結論から述べれば、実に余韻の深いノワー…

「黒衣の花嫁」コーネル・ウールリッチ

〝第二のフィッツジェラルド〟を目指していた文学青年ウールリッチがミステリ作家へと転身したのちの初長編で1940年発表作。全体の印象と物語の構造は、後の「喪服のランデヴー」(1948)と重なる部分が多い。そして、二作品ともウールリッチの代表作である…

「裸の顔」シドニイ・シェルドン

精神分析医スティーブンスの周辺で相次ぐ殺人。自身も生命を狙われる羽目に陥るが、不可解な状況から警察からは逆に容疑者扱いされた。何故、命を狙われるのか。スティーブンスは、精神的不安を抱えた患者らの背景を改めて調べ始めるが、その間にも正体不明…

「魔の帆走」サム・ルウェリン

「海のディック・フランシス」の謳い文句が付いた1987年発表の海洋冒険小説。舞台は、イギリス沿岸部でヨットスポーツの拠点として開発が進む街。主人公は、ヨット設計技師チャーリー・アガッター。間もなく大西洋上でビッグレースが開催される予定だったが…