海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「裸の顔」シドニイ・シェルドン

精神分析医スティーブンスの周辺で相次ぐ殺人。自身も生命を狙われる羽目に陥るが、不可解な状況から警察からは逆に容疑者扱いされた。何故、命を狙われるのか。スティーブンスは、精神的不安を抱えた患者らの背景を改めて調べ始めるが、その間にも正体不明の〝殺し屋〟は執拗に迫ってきた。

日本において一時期「超訳」という原文無視の極めて粗悪な意訳によって売り出されていたベストセラー作家シェルドン(シェルダン)だが、いくら本人が認可しているとはいえ、私は小説に対する冒瀆だと考えるので、それらを一切読むつもりはない。本作は、幸運にも初期に真っ当な翻訳で出版された1970年発表のデビュー作。元々シナリオライターとして活躍していただけあり、文章は平易で映像的。ストーリー展開も早く、コンパクトにまとめている。ただ、味わいという点ではまだ未成熟な部分もあると感じた。サスペンスも凡庸で、事の真相にも無理がある。良くも悪くも犯罪映画のシノプシスといった感じだ。

 評価 ★★