海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「死せるものすべてに」ジョン・コナリー

アイルランド出身の作家を読む機会が増えている。国柄なのか、全編にみなぎるボルテージの高さや、荒々しく分厚い筆致、破綻すれすれまで暴走する疾走感など、共通する部分も多い。個人的には素っ気ないスタイルよりも好みなのだが、必ずしも完成度に結び付…

「ハッテラス・ブルー」デイヴィッド・ポイヤー

少年期、スティーヴンソン「宝島」の世界に魅せられたように、男にとって〝宝捜し〟は幾つになっても胸躍るテーマだ。当然、冒険小説作家にとっても一度は挑戦したい題材に違いなく、多様なアイデアを駆使した〝大人のための「宝島」〟が、今も生み出され続…

「弁護士の血」スティーヴ・キャヴァナー

全編にみなぎる熱量が凄い。一時期ミステリ界を席捲したリーガル・サスペンスの一種だろうというバイアスは、幕開けから覆される。本作は、臨界点まで追い詰められた男の闘いを、圧倒的な筆力で活写した血が滾る傑作である。 舞台はニューヨーク。弁護士エデ…

「シベリアの孤狼」ルイス・ラムーア

1986年発表、ほぼ全編にわたりサバイバルが展開する異色作。主人公は、米国空軍少佐ジョー・マカトジ。最新鋭機のテスト飛行中、ソ連GRUの策略で強制着陸させられ、収容所送りとなる。男は機密を漏らすことなく即効脱走する。眼前に拡がるのは、荒涼とし…

「大統領に知らせますか?」ジェフリー・アーチャー

英国の政治家で小説家のアーチャーは、下院議員時代に偽証罪で投獄されるなど、その波乱に満ちた半生は広く知られている。実刑判決を受けて2年にも及ぶ刑務所生活を送り、出所後に発表した獄中記がさらに話題になるなど、転んでもただでは起きぬ逞しさ/図…

「深い森の灯台」マイクル・コリータ

ホラーと謎解き/ミステリのクロスオーバーは格別珍しいものではないが、重点の置き方で印象はがらりと変わる。いかにして読者を怖がらせるか、心理的に追い詰めていくか。謎が魅力的であればあるほど、闇が深ければ深いほど、物語は面白くなる。 海から遠く…

「ちがった空」ギャビン・ライアル

大空を翔る男たちのロマンに彩られた航空冒険小説。1961年発表、しっかりとした骨格を持つライアルのデビュー作で、宝捜しというオーソドックスなテーマに挑んでいることからも、新参者としての熱い意気込みが伝わってくる。第二次大戦が引き金となり英国領…

「パーフェクト・キル」A.J.クィネル

本作発表の1992年時点ではまだ覆面作家だったクィネルが、処女作と同じ元傭兵クリーシィを主人公に据えた作品。以降シリーズ化しており、結末で次に繋がる流れを用意している。 1988年12月、パンナム103便がテロによって爆破された。乗員乗客全員が死亡、落…

「ラジオ・キラー」セバスチャン・フィツェック

ベストセラーを連発するドイツの新鋭フィツェック2007年発表の第二作。一般市民をも巻き込んだ特異な犯罪の顛末を描く。 ベルリンのラジオ局を一人の男が占拠した。放送を通して、或る条件を満たさなければ、人質を順に殺していくことを告げる。要求は、行方…