海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2016-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「眠りなき狙撃者」ジャン=パトリック・マンシェット

ロマン・ノワールの神髄に触れることができるマンシェット1981年発表の遺作。最後の仕事を終え、引退を決意した殺し屋を阻む闇の組織との無情なる闘い。徹底した客観描写で情景を描き切る真にハードボイルドな文体を、フランス文学者・中条省平の気合いの入…

「天使と悪魔」ダン・ブラウン

読者を徹底的に楽しませることに主眼を置いた傑作エンターテイメント小説。冒頭の1ページ目を読み始めたら、最後まで一気読みは必至である。映画もヒットしているが、バチカンとローマの名所を巡りつつ展開する物語は極めて映像的で、観光ガイドとして活用…

「スティック」エルモア・レナード

レナードが爆発的人気を博す直前の1983発表作。綿密なプロットよりも、イキのいい会話を主体に小悪党どもを筆の赴くままに描いており、小気味よい作風が本作ではより強められた感じだ。麻薬と金を巡る登場人物らの言動は極めて不真面目でいい加減なのだが、…

「娼婦の時」ジョルジュ・シムノン

冒頭数ページの情景描写は、ひたすらに美しい。パリ郊外。氷雨の降り続く闇を切り裂き疾走する車。放心した状態でハンドルを握る若い男。しばらく田舎道を走り続けた車は山中で故障し、男はやがて古い宿に辿り着く。酒を飲んだ後、男は電話を借りて警察を呼…

「この世の果て」クレイグ・ホールデン

様々なエピソードを積み重ねながらも全体的にまとまりがなく、テーマも絞り切れていないため、読後感はすっきりしない。やたらと多い登場人物と、ぶつ切りの場面転換のため、前後の状況が混乱する。それは多分に日本語として熟されていない翻訳の所為でもあ…

「ゴーン・ガール」ギリアン・フリン

間抜けな男を翻弄する悪女を描いた作品と単純化すれば身も蓋も無いが、ひたすらに構成の巧さに唸る秀作だ。早くも倦怠期を迎えた若い夫婦、夫は独白、妻は日記という交互の視点で語っていく。発端で既に妻は失踪し、その日記は過去のエピソードから始まって…

「闇の報復」F・ポール・ウィルスン

「ナイトワールド・サイクル」全6部作の第5部。光と闇による凄まじい闘いが展開する最終作へと向けて、これで全ての「役者」が出揃ったことになる。前作で復活を遂げた魔人ラサロムが、再び強大な力を取り戻すまでを描いており、神父ビル・ライアンを主人公…

「反撃」リー・チャイルド

元軍人ジャック・リーチャーシリーズ第2弾。本作から三人称としたのは、よりダイナミックなストーリー展開に軸足を移そうとした結果なのであろう。ずば抜けた智力と戦闘能力を併せ持つリーチャーの超人的活躍は、第1作「キリング・フロアー」から引き継が…

「テキサス・ナイトランナーズ」ジョー・R.ランズデール

ノワールの萌芽を文体から感じることはできるが、狂気に蝕まれた少年たちの殺戮を描くことに終始し、意味あり気な構成をとりながらも、雰囲気重視の空虚なプロットのため、後味の悪いホラー映画に影響を受けた作品という感想しかない。解説を書いている馳星…