海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

「ラス・カナイの要塞」ジェームズ・グレアム

難攻不落の城塞からの救出作戦。このシンプルな設定で、どれほど魅惑的な物語が生まれることだろうか。発端の舞台はイタリア・シシリー島。牢獄に囚われた義理の息子ワイアットを救い出せ。米国を追放されたマフィアの大物スタブロウは、引退していた元英国…

「ゴールデン・キール」デズモンド・バグリイ

「男の中に熱い血が流れている限り、不可能ということはないんだよ」……これは、冒険小説に通底する〝美学〟を見事に言い表した有名な台詞だ。名作「高い砦」(1965)によって、永遠に記憶されるバグリイ。滾る血の命ずるまま、たとえ愚かと嘲笑されようとも、…

「切り札の男」ジェイムズ・ハドリー・チェイス

米国産ハードボイルドなど生ぬるいと言わんばかりに冷酷非道の犯罪の顛末を描いた処女作「ミス・ブランディッシの蘭」(1939)。無名の英国人作家の衝撃的な登場に、世界中のミステリファンは度肝を抜かれた。私利私欲に塗れた悪党が入り乱れる突き抜けた構成…

「ダーウィンの剃刀」ダン・シモンズ

2000年発表の冒険スリラー。シモンズは、ホラー/SF/アクション/ハードボイルドなど、ジャンルを越境して創作、どの分野でも高い評価を得ている才人だ。小手先の技術ではなく、独自の世界観/スタイルをしっかりと構築し、その道の専門家に引けを取らな…

鉛の心臓は何故二つに砕けたのか。〜「幸福の王子」オスカー・ワイルド〜

人生の旅路。その途上で出会う幾つかの物語。 オスカー・ワイルドが30代で発表した美学の結晶『幸福の王子』は、今でも折にふれて読み返している。耽美で静謐な文章、自己犠牲の尊さと虚しさを説く強烈な風刺。凍てついた街を舞台に、無力な偶像と一羽の鳥が…

「アマゾニア」ジェームズ・ロリンズ

現在(2020年4月)パンデミックの状態にあり、終息する兆しが全くみえない「新型コロナウイルス」によって、感染症の恐さを世界中の人々があらためて実感している。本作では、サブ的ではあるのだが、未知の疫病が蔓延する恐怖も描いている。当然、娯楽小説…