海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧

「悠久の窓」ロバート・ゴダード

この作家の作品は初読だが、何がどう面白いのか、さっぱり分からなかった。文庫本の解説で、評論家の池上冬樹がしきりにゴダードの魅力を語っているのだが、単に長いだけの凡作を褒めなければならない苦しさのみが伝わり空々しい。 プロットは完全に破綻して…

「追跡」ジョン・カッツェンバック

中盤まではややもたつくが、後半に影の男が登場して以降の結末まで畳み掛けるサスペンスは流石。老刑事の奮闘ぶりも印象的だ。フロリダの街や海辺の情景を、それを眼にする登場人物らの心情とだぶらせて見事な描写をするのもカッツェンバックならではといえ…

「ボビーZの気怠く優雅な人生」ドン・ウィンズロウ

不覚にもラストシーン数行は涙で翳んでいた。物語作家としてのウィンズロウの底知れぬ才能に平伏し、惚れ直す。テイストはクライム・ノベルだが、苦いユーモアを交えた先の読めない奇抜なプロット、ロードムービー的な展開の中で繰り広げられる臨場感溢れる…

「謀殺ポイントへ飛べ」ダンカン・カイル

第一次大戦時にドイツ軍の戦闘機乗りであった主人公は、敵前逃亡により死刑が確定、執行寸前に戦争が終結し命拾いする。だが、汚名は消えず米国へ逃亡、名もミラーと変える。時は流れ、1941年、米国参戦の憶測が流れる中、ルーズベルトとチャーチルによる会…

「大魚の一撃」カール・ハイアセン

ハイアセンの魅力は、疾走するストーリー展開と強烈な個性を持つキャラクターたちの織り成す人間模様、そしてラストには勧善懲悪できっちりと締める爽快感にある。フロリダ・マイアミを舞台に、愚劣な政策によって環境破壊が進む現状への怒りを込めた社会批…

「ノヴェンバー・マン」ビル・グレンジャー

米国のスパイ、デヴェローを主人公とするシリーズで1979年発表作。CIAの監視役も兼ねて設立された対抗組織としての米国情報部Rセクションが物語の軸になり、IRAのテロを巡っての敵味方入り乱れての諜報戦と妨害工作が展開する異色のエスピオナージュ。 イギ…

「狼を庇う羊飼い」ベンジャミン・シュルツ

ワシントンDCの私立探偵レオ・ハガティーを主人公とする第一作、1985年。幼い双子を誘拐されたソーンダーズ家のもとに、犯人から5年ぶりに電話があり、逆探知の情報を掴んだ父親は警察を頼らず単独で手掛かりを追っていく。情緒不安定の夫を心配した妻が、…