海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「天国への鍵」リチャード・ドイッチ

高価な金品のみを狙う泥棒マイクル・セントピエールは、結婚を機に引退した。数年後、真っ当な仕事に就き、質素な生活を送っていたマイクルのもとに、ドイツの実業家と名乗るフェンスターが奇妙な依頼を持ち込む。バチカンが厳重に保管する宝を盗み出して欲しい。キリストにまつわる伝説の「鍵」らしいが、真の狙いが掴めない。この時、マイクルの妻は末期癌に冒されており、どうしてもカネが必要だった。他に選択肢がない元泥棒はヨーロッパへと向かう。

2006年発表のスリラー。惹句にはホラー・アクション巨編とあるが、構成や人物造形など総じて甘い。この作家は、先に「13時間前の未来」を読んでおり(未レビュー)、その斬新な着想と圧倒的な筆力に唸り、速攻で購入したのが本作だ。だが、期待はあっさりと裏切られた。捻りがなく、凡庸。〝悪魔〟に至っては、好色な俗物で、微塵も迫力を感じない。何とも底の浅い悪魔で、次第にコメディーもどきとなっていく。
本作を先に読んでいれば、「13時間前の未来」には手を出さなかっただろう。どうやらドイッチは驚異的なスピードで腕を上げたらしい。
評価 ★★