海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ウバールの悪魔」ジェームズ・ロリンズ

古代ロマンを軸に事実と虚構を織り交ぜたエンターテインメント「シグマ・フォースシリーズ」〝第0弾〟で2004年発表作。次作から主役を張るグレイ・ピアースはまだ登場せず、この後シグマ司令官となるペインター・クロウが現役隊員として活躍する。ただ、ロリンズの描くヒーロー像は、作品によって大した違いはない。共通するのは、最先端科学に精通し、戦闘能力にも長けたタフな男が、数多の試練を乗り越えて、強大な闇組織の企みを打ち砕くというスタイルだ。甘美なロマンスを絡めている点も同じで、娯楽小説の要素をふんだんに盛り込んだパワフルな冒険スリラーとなっている。

本作の主な舞台は中東オマーン。広大な砂漠の下に眠る伝説の古代都市「ウバール」では、核を遙かに超える無限のエネルギー源「反物質」が使われていたという。或る嵐の夜、大英博物館が保管していたウバールの遺物が謎の衝撃波を発して爆発した。英国の考古学者らはオマーンへと飛び、秘密の根源に迫ろうとする。事件を知った米国国防総省は、秘密特殊部隊「シグマ」隊員のクロウら精鋭を派遣し、学者グループに同行させて事態の真相を探らせる。時を同じくして世界覇権を狙う秘密結社「ギルド」の工作員らも動き始めていた。かくして、未知の物質を巡る壮絶な攻防が大砂漠で展開する。

ロリンズの作風は、才能と実力を兼ね備えたダン・ブラウンの系譜に連なり、本作の核となる反物質も「天使と悪魔」(2000)で扱った題材だが、大風呂敷においては遙かに上回っている。現代科学によって古代遺跡の謎を解き明かしつつ、絶え間なく繰り広げる秘密結社との死闘。いかにもアメリカ的な勧善懲悪を根底に置き、男女の恋愛や家族愛などを謳い上げつつ、中弛みなく冒頭から結末まで突っ走る。物語では、超人的な特殊能力が謎を解く鍵となるのだが、ここら辺はあくまでも〝娯楽〟的要素のひとつとして割り切る必要がある。映画「インディ・ジョーンズ」の小説版を手掛けている通り、見せ場たっぷりの冒険活劇は視覚的で臨場感に溢れ、加速するスピードは息つく暇も無い。相変わらず長大な小説を破綻することなく仕上げるロリンズの力量には圧倒されるが、読み手に体力がないと消化不良を起こしかねない。私は、読了後しばらくは〝さっぱり系〟の小説でひと休みすることにしている。

 評価 ★★★