海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「消えた錬金術師」スコット・マリアーニ

ベン・ホープシリーズ第1弾で 2007年発表作。いかにも英国人好みの高潔で高貴な男を主人公に据え、歴史ロマンを絡めたアドベンチャーを展開する。

ホープは本作の時点で37歳。元英国陸軍特殊空挺部隊(SAS)の隊員で、現在はフリーランス。主に誘拐された子どもを奪還する仕事を専門に請け負っていた。今回の依頼主は、老いた富豪の男。不治の病に冒された孫娘を救う〝秘薬〟があり、その秘密を解き明かした手稿を手に入れてほしいという。男の話は眉唾物だった。20世紀初頭、フランスの錬金術師フルカネリが発見した〝不老不死の霊薬〟が存在するというのだ。ホープは、手掛かりを求めて接触した米国の女性生物学者ロベルタの協力を得て、ヨーロッパへ飛ぶ。時を同じくして、或るヴァチカン大司教の密命を帯びた凶悪な〝異端審問官〟が動き始めていた。事態は混迷しつつ、危険度を増していく。

現役作家でいえば、ダン・ブラウン/ジェームズ・ロリンズの系譜を汲むが、米国と英国の気風の差が如実に表れている。マリアーニの特徴を些か短絡的に述べれば「品が良すぎる」というところか。フレッシュな感性や柔らかいタッチは魅力で、剛腕で押し切るロリンズの大作のように胃にもたれることはない。だが、気負い過ぎて雑になった部分が目立ち、完成度を下げてしまっている。

主人公は、清廉で正義感が強く、子どもや女性に優しい。そして、或るトラウマを抱えている。まさに絵に描いたようなヒーローなのだが、これも残念ながら造型が浅い。ヒロインとなる学者も大してサポートしておらず、あくまでも賑やかしの存在で止まっている。秘密結社の黒幕も迫力不足。このタイプのストーリーでは強大な悪こそが不可欠であることを改めて感じた。
肝心のプロットは、どこかで読んだ作品の寄せ集めのようなもので、知的興奮度も低い。そもそも核となる〝宝〟が、錬金術によって生み出された不老不死を叶える秘薬なのだから、読み手は絵空事として冒頭から割り切って読むしかない。謎の解き方もご都合主義が目立ち、同系のスリラーを読み慣れた読者なら、物足りなさを感じる部分も多いだろう。終盤の盛り上げ方にも工夫が欲しい。

といっても、今の時代に新たな活劇小説を創作しようと奮闘するマリアーニの心意気には好感が持てた。次作に期待したい。

 評価 ★★☆