海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「テロルの嵐」ゴードン・スティーヴンズ

原題は「Peace on Earth(地に平和を)」。無辜の人々の犠牲と引き換えに主義主張を押し通すテロリズムに、些少な「大義」はあったとしても、「正義」を掲げる資格など微塵も無い。だが、テロリストが生み出される根底には、虐げられ、追いつめられ、殺され…

「卵をめぐる祖父の戦争」デイヴィッド・ベニオフ

邦題は暗喩なのだろうと漠然と思っていた。だが冒頭を読み進めた段階で、捻りも無く物語をそのままに表したものだと判る。日常から卵が消えた街。つまりは人間社会が存続するために不可欠な家畜などの生き物が失われた世界である。1942年、ナチス・ドイツに…

「ボーン・コレクター」ジェフリー・ディーヴァー

〝犯罪学者〟リンカーン・ライムシリーズ第1作。捜査中の事故によって四肢麻痺の体となった元ニューヨーク市警の科学捜査部長ライムが、後に相棒となる警官アメリア・サックスを得て、最新の科学捜査と犯罪心理を駆使して連続殺人鬼を追い詰める。 ライム初…

「パーフェクト・ハンター」トム・ウッド

凄まじいボルテージのアクションで埋め尽くされた圧巻の活劇小説。プロ対プロの暗殺者の闘いを終始ハイテンションで描き切る。殺し屋を主人公とするスリラーは吐いて捨てる程あるが、完成度に於いて本作は傑出している。ロバート・ラドラムの傑作スリラー「…

「ハメット」ジョー・ゴアズ

当然だが、ダシール・ハメットをメルクマールとするハードボイルド作家は多い。ハメットと同じく探偵から小説家へと転身したゴアズの思い入れも相当で、伝説の男を主人公とするミステリを完成させた。発表当時は大いに話題になり、映画化もされている。実在…

「逃亡空路」スペンサー・ダンモア

冒険小説とは、何よりも誇り高き男(女)たちの物語である。自覚した己の弱さを克服し、眼前に立ち塞がる様々な試練を経験と知恵で乗り越え、時に生命の危険を顧みず、強大なる自然の脅威や圧倒的な敵に敢然と立ち向かう。例え他人には愚かと罵られようとも…

「第八の地獄」スタンリィ・エリン

短編の名手として知られるエリン1958年発表のMWA長編賞受賞作。翻訳者はロス・マクドナルド成熟期の名作を手掛けて名高い小笠原豊樹。主人公は、若くして私立探偵社を継いだマレイ・カークで、ハードボイルドまでとはいかないが、ストイックで感傷的な世界を…

「ダブル・ショック」ジェイムズ・ハドリー・チェイス

ハドリー・チェイス、1959年発表作。 主人公はテレビ・ラジオのセールスマンであるレーガン。ある日、引っ越したばかりのディレニイ夫妻宅を訪れたレーガンは、自動車事故で下半身不随となった夫・ジャックの妻であるギルダに一瞬で魅せられ男女の関係を持つ…

「魔弾」スティーヴン・ハンター

日本でも人気の高いスティーヴン・ハンターのデビュー作。1945年、敗戦の色濃いドイツを主な舞台に、特命を帯びた親衛隊の狙撃手と、その目的阻止に動く米英の軍人との闘いをメインに描く。ハンターの銃器に対する偏愛は既に横溢しており、開発中であった「…