海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2018-08-01から1ヶ月間の記事一覧

「ゴールド・コースト」ネルソン・デミル

有閑階級の衰退を独特のスタイルで描いた才人デミル1990年発表の異色作。急速に台頭したアメリカ型資本主義社会の恩恵を受け、永らく栄耀栄華をほしいままにした大資産家ら。主人公ジョン・サッターは、その代表的階層となる「ワスプ」の体現者であることを…

「スカイトラップ」ジョン・スミス

1983年発表、ジョン・スミスの処女作。翻訳本表紙カバーは、冒険小説ファンの心をくすぐる安田忠幸の装画。だが、素晴らしいのはそこまで。結論から述べれば、滅多にないほどの駄作なのである。その分インパクトがあり、逆の意味での面白さはある。版元の宣…

「警部、ナチ・キャンプへ行く」クリフォード・アーヴィング

米国の大富豪ハワード・ヒューズの自伝捏造によって世間を騒がせた異端の作家アーヴィング1984年発表作。その経歴とは裏腹に、本作はナチス強制収容所を舞台に、戦時下での「正義のあり方」を問い直す、実直で揺るぎない信念を感じさせる力作である。 原題は…

「地獄の家」リチャード・マシスン

「幽霊屋敷」を舞台とするモダンホラーの先駆であり、ジャンルの開拓者でもあったマシスンの存在を知らしめた一作。残虐非道の限りを尽くした狂人の霊が取り憑いた家。物理学者夫婦と霊媒師の男女という相反するチームが、その実態を解明すべく乗り込む。想…

「声」アーナルデュル・インドリダソン

孤独な生活を送っていたドアマンがホテルの地下室で惨殺される。かつて男は、美しい歌声で人々を魅了したことがあった。だが、避けて通ることのできない変声のため、スポットライトを浴びた初舞台で、一瞬にして「ただの少年」へと変わったのだった。厳しく…

「過去からの狙撃者」マイケル・バー=ゾウハー

スパイ/スリラー小説の醍醐味を堪能できるバー=ゾウハー1973年発表の処女作。二重三重に仕掛けを施したプロットは、後の「エニグマ」、「パンドラ」で更に深化するのだが、無駄なく引き締まった本作も決して引けを取るものではなく、綿密に練り込まれた構…

「葬儀屋の未亡人」フィリップ・マーゴリン

1998年発表のサスペンス。いささか強引な部分はあるものの、随所でツイストを利かせつつ、ミステリの定石を踏まえた仕掛けを施している。成り上がることを人生の基軸に置く者が、傲慢さ故に崩壊する有り様を生々しく描き出す。〝一応〟の主人公である若い判…

「さよなら、シリアルキラー」バリー・ライガ

カテゴリは〝ヤングアダルト小説〟という私自身は食指が動かない分野に属しているが、散々使い古された題材「サイコキラーもの」に挑んだ本作は、停滞したミステリ界に幾ばくかの新風を吹き込んで話題となったようだ。 主人公ジャズ・デントは17歳の高校生で…

「優雅な死に場所」レン・デイトン

登場する人物全てが正体を隠し、偽りの言葉で煙に巻く。それは主人公の英国秘密情報部員も然り。名無しの「わたし」は、急場を凌ぎ、僅かな情報の欠片を集めることに留意する。時と場を変えて繰り返される曖昧模糊とした駆け引き。真意が見えず、その言動が…