海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2015-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「ロゼアンナ」マイ・シューヴァル/ペール・ヴァールー

以前は北欧ミステリといえば、マルティン・ベックシリーズを指した。本作は1965年発表の記念すべき第一作。 スウェーデンを遊覧中のアメリカ人女性ロゼアンナ(新訳ではロセアンナ)が遺体となって海から引き上げられる。警視庁殺人課のベックやコルベリらは…

「L.A.で蝶が死ぬ時」ロバート・キャンベル

ロサンジェルスの私立探偵ホイスラーを主人公とする三部作の第1作。ハードボイルドの定式におさまらないオフビートの魅力に溢れた作品で、ハリウッドの最下層、女優の卵や未成年者を食い物にする裏社会の無惨な暴力の実態を描き出す。 事務所を持たないホイ…

「ザ・ポエット」マイクル・コナリー

現代ハードボイルドの旗手とされるマイクル・コナリーだが、本作や「わが心臓の痛み」を読んで感じるのは、純粋に「ミステリ(推理)」が好きな作家なのではないか、ということだった。二重、三重に捻りを加えた構成は極めて複雑で、〝どんでん返し職人〟ジ…

「凶悪の浜」ロス・マクドナルド

1956年発表、リュー・アーチャーシリーズ第六作。次作に「運命」を控えた過渡期の作品で、書評などで取り上げられることもない作品だが、前進し続けたロス・マクドナルドが力を緩める筈はなく、徹底的に練り上げたプロットと、深味を増した人物描写、さらに…

「マイ・スイートハート、マイ・ハニー」アンドルー・コバーン

ボストン・マフィアの大物ガーデラの両親がチンピラに惨殺される。その事件を利用してマフィア壊滅を画策するFBIは、囮捜査官(暗号名〝スイートハート〟)を接触させて警察の内部情報を洩らし、ガーデラに復讐を遂げさせる。〝スイートハート〟は、州警の現…

「ハード・トレード」アーサー・ライアンズ

ロサンゼルスの私立探偵ジェイコブ・アッシュシリーズ、1981年発表作。70年代から多様化したハードボイルド小説の中で、登場人物や筋立てなどで奇をてらうこともなく、極めてシンプルな仕上がり。アッシュの私生活は最低限度におさめ、腐敗した政治家や強欲…

「法律事務所」ジョン・グリシャム

グリシャム、デビュー2作目にしての大ベストセラー。リーガル・サスペンスの代表作のひとつに挙げられているが、本作に裁判の場面は一切登場せず、所謂「法廷もの」ではない。物語の序盤は、大学を卒業したての青年弁護士が高額の給与につられて税務専門の法…

「警察署長」スチュアート・ウッズ

優れた評論家であった瀬戸川猛資絶賛の書。アメリカ南部・架空の町デラノを舞台に、長きにわたり未解決となる連続殺人と、根深い人種差別に翻弄されつつ事件に挑んでいく警察署長三代を描いた大河小説。謎解きはあくまでも添え物で、作者の主眼は20代以降の…

「エージェント6」トム・ロブ・スミス

壮大なる実験でもあった理想国家ソ連の闇を照射する傑作シリーズ完結編。三部作其々が喪失と再生を主題にしているが、本作では遂に主人公レオが最愛の人まで失う。絶望と退廃の中で行き場なき怒りが暗流を漂い、復讐と呼ぶにはあまりにもやるせない本懐を遂…

「吸血鬼ドラキュラ」ブラム・ストーカー

誰もが知る吸血鬼小説の古典だが、今読んでも充分面白いエンターテイメントに仕上がっている。 人里離れ闇深く閉ざされたトランシルバニアの古城で人の生き血を吸い、生きる屍として永遠に呪われ続けるドラキュラ伯爵。この作品以前にも伝説を題材にした吸血…