海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-11-01から1ヶ月間の記事一覧

「わが母なるロージー」ピエール・ルメートル

パリ警視庁犯罪捜査部カミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズ、2013年発表の〝番外編〟。翻訳文庫本で約200頁の中編のため、読み応えでは物足りない面もあるが、その分、全編を覆う緊張感はより濃密になっている。比較的シャープなプロットの中に、技巧派なら…

「暗いトンネル」ロス・マクドナルド

本名ケネス・ミラー名義で1944年に発表した処女作。執筆時はまだ28歳の若さで、ミシガン大学在学中に書き上げている。当時カナダ提督であった作家ジョン・バカンの講演を聞いたことがきっかけで構想、その影響下で執筆したと述べている。とかくミラー時代の…

「拾った女」チャールズ・ウィルフォード

思い掛けなく翻訳された1954年発表作。各誌の年間ベストにも選出され、概ね好評を得ていた。ウィルフォードは、80年代に始まったマイアミ・ポリス/部長刑事ホウク・モウズリーシリーズで著名なのだか、どちらかといえば玄人好みのマイナーな存在という印象…

「脱出せよ、ダブ!」クリストファー・ウッド

1983年発表、冒険小説本来の魅力を存分に味わえる隠れた名作。巻末解説で翻訳者佐和誠が熱を込めて述べている通り、本作の〝主人公〟は、縦横無尽に活躍する単葉飛行機《ダブ》である。オーストリアで生まれ、第一次大戦でドイツの主力戦闘機となり、初めて…

「ウェットワーク」フィリップ・ナットマン

近年の欧米ホラー映画の定番は、いわゆる〝ゾンビ物〟のようだ。宇宙からの怪光線や謎のウイルスによって死者が蘇り、人間の生肉を喰らい、噛まれて死んだ者は同類となって蘇生、頭部を破壊しなければ永遠に生きる屍となって地上を徘徊する。カニバリズムな…

「死のドレスを花婿に」ピエール・ルメートル

現代フランス・ミステリの底力を見せつけるルメートル。2009年発表の本作でも繊細且つ大胆な仕掛けを施した超絶技巧が冴え渡り、暗い情念に満ちた濃密なノワールタッチの世界と相俟って読み手を魅了する。 ソフィー・デュゲは、悪夢から目覚め、現実の地獄へ…