海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2022-02-05から1日間の記事一覧

「裁くのは誰か?」ビル・プロンジーニ、バリー・N・マルツバーグ

「驚天動地の大トリック」という惹句に惹かれて読む本格ファンは多いだろう。本作の結末について、良いも悪いも特に反応できなかった私は、ミステリを楽しむ基準が変わったのではなく、謎解きについてそもそも〝縛り〟がある方がおかしいという考えがあるか…

「届けられた6枚の写真」デイヴィッド・L・リンジー

無性に或る作家の世界観や文章表現に触れたくなる時がある。リンジーはその一人で、定期的に〝読まなければならない〟という衝動に駆られてしまう。本作も、私の言い様のない渇きを癒やす泉のような作品だった。 ヒューストン警察の刑事スチュアート・ヘイド…

「人狼を追え」ジョン・ガードナー

あとにクルーガーシリーズでスパイ小説の金字塔を打ち立てるガードナー1977年発表作。本作はいわゆる〝ナチス物〟だが、これがかなりの異色作だ。 1945年4月30日、ベルリン地下壕でヒトラーは自殺した。側近らが次々に逃亡を謀る中、或る将校に手を引かれた…

「四つの署名」コナン・ドイル

1890年発表のシャーロック・ホームズ第二弾。幕開けのシーンはなかなか衝撃的だ。暇を持て余し、刺激を得るためにコカインを常用する探偵。恐らく「児童向け」では、ホームズの薬物中毒は削除されているだろうが、コナン・ドイルは後世まで名を残すこととな…

「スカーラッチ家の遺産」ロバート・ラドラム

1971年上梓の処女作。舞台俳優や劇場主から作家へと転身したラドラムは、この時すでに50代。よほど物書きへの強い憧れがあったのだろう。以降毎年のように大作を発表し続け、その大半がベストセラーとなるという稀に見る成功を収めた。特に「暗殺者」(1980…

「ここにて死す」マーク・サドラー

1971年発表作で、世界的な潮流でもあった学生運動を題材としている。黒人過激派、前衛劇団など、大学を根拠とする反体制グループの若者たちを描いているのだが、かなり観念的な論争を繰り広げていく。本筋は極めてシンプルで、全体的なトーンは良いのだが、…