海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「四つの署名」コナン・ドイル

1890年発表のシャーロック・ホームズ第二弾。幕開けのシーンはなかなか衝撃的だ。暇を持て余し、刺激を得るためにコカインを常用する探偵。恐らく「児童向け」では、ホームズの薬物中毒は削除されているだろうが、コナン・ドイルは後世まで名を残すこととなる〝ヒーロー〟の身上には無頓着だったようだ。決して高潔で理想的な人間ではないというのも、或る意味ホームズの魅力なのかもしれないが。

本作は、動乱のインドから消えた財宝を巡る物語で、探偵が培った観察力と推理力を発揮する。ただ、時代ゆえ人種差別は公然と罷り通り、エピソードも気持ちの良いものではない。同時に19世紀後半、植民地化政策を推し進めていた大英帝国の斜陽/退廃をも感じる。終盤でのテムズ川上で繰り広げる追跡劇は躍動感に満ち、冒険小説作家ドイルの一面を知ることができる。
とは言うものの、ホームズ物に大した思い入れのない私には、全体としては物足りなく、本筋とは関係のないワトソンが伴侶を見つけるという枝葉ぐらいが印象に残った。

評価 ★★