海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2021-06-11から1日間の記事一覧

「甦える旋律」フレデリック・ダール 【名作探訪】

「世界じゅうでいちばん悲しいものは? それは壊れたバイオリンではないかと思う」ナイーヴで感傷的なモノローグで始まるこの物語を初めて読んだのは、私自身がまだまだ未熟で多感な時だった。読む物すべてが新鮮で知的な〝冒険〟に満ちていた頃。そんな中で…

「裏切りのキロス」ジャック・ヒギンズ

先日綴った通り、本格物のみならず、ハードボイルドやスパイ/冒険小説の名作を再読し、レビューするつもりでいるのだが、如何せん未読の山を眼にすると、つい先に手を伸ばしてしまう。特にヒギンズの場合、初期には読み残しが多い。いつ「鷲は舞い降りた」…

「悪を呼ぶ少年」トマス・トライオン

決してホラー小説を多く読んできた訳ではないが、文字通り恐怖感を覚えた作品は少ない。「悪魔の収穫祭」(1973)はその稀な作品のひとつで、ポーやラヴクラフトらの古典に通じる根源的恐怖を現代へと鮮やかに甦らせていた。トライオンは42歳で俳優を引退し…