海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「チェシャ・ムーン」ロバート・フェリーニョ

惹句にはハードボイルドとあるが、サスペンス基調のミステリという印象。主人公クィンは元新聞記者で現在はゴシップ誌のライター。元妻とは友達付き合いを続けており、同じ敷地内にある離れで暮らしながら、幼い一人娘の寝姿を裏庭の木から見守る日々。そんな中、古い付き合いの故買屋が助けを求めてきたが、間もなく不可解な状況で死ぬ。警察は自殺と結論付けるが、納得できないクィンは自死を否定する僅かな手掛かりをもとに独自に調査を始める。一方、クィンの行動に勘付いた殺人者は、その跡を付け回し、命を狙う機会を窺う。

期待して読み始めたが、どうにも中途半端で独自のスタイルがない。翻訳者後書きでは評価の高い作家らしいが、本作を読む限りでは人物に生彩が無く、物語に深みもない。旧友の死を原因を突き止めるために主人公が立ち上がるまではいいが、常に殺人者の影に怯え、弱さばかりが際立つ。肝心の殺人者の造形も物足りない部分が多く、不自然な展開も目立つ。要は総体的に薄く、軽い。ハードボイルドを謳うのであれば、文体にも味わいが欲しい。

評価 ★★