海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ちがった空」ギャビン・ライアル

大空を翔る男たちのロマンに彩られた航空冒険小説。1961年発表、しっかりとした骨格を持つライアルのデビュー作で、宝捜しというオーソドックスなテーマに挑んでいることからも、新参者としての熱い意気込みが伝わってくる。
第二次大戦が引き金となり英国領から分離独立したインド・パキスタン。その混乱期に失われたインド王室の財宝を巡り、エーゲ海を舞台に争奪戦が展開する。主人公は、雇われパイロットのジャック・クレイ。腕は確かながら、過去の非合法活動がもとで英国国籍を離れている。あとに行動を共にするのは、ライバルであり親友でもある敏腕飛行士ケン・キトソン。この二人の共闘を軸に、宝石を追い求めるアウトローらの姿を描くのだが、酸いも甘いも噛み分ける成熟した男、ライアルならではの筆致で、狡猾な「犯罪」ではなく、爽快な「冒険」としての世界観を構築している。二人を待ち受ける苦いラストは、後の名作「深夜プラス1」でも深化する情景へと繋がるものだが、結局はカネや名誉ではなく、男としての誇りが全てを決定付ける冒険小説本来のエッセンスを凝縮したものだ。
臨場感溢れる飛行シーンも多彩で、冒険小説ファン感涙の名機ダコタDC3や独特なスタイルが魅力のピアッジオは、空を飛ぶことの喜びへといざなう。
ライアルの初期作品には、現代の作家が見失っている紛れもない香り高い「浪漫」があり、儚くも美しい夢がある。

評価 ★★★