海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ブランデンブルクの誓約」グレン・ミード

1994年上梓のデビュー作。この後にスパイ/冒険小説史上屈指の名作「雪の狼」を書き上げるのだが、本作はナチス残党の謀略に主眼を置いており、冒険的要素は薄い。けれども、目的に向かって闘う不屈の男を軸に、多彩な登場人物が入り乱れるストーリーは、翻訳文庫本上下2巻800ページを超えるボリュームでありながらも長さを感じさせず、処女作にかけるミードの並々ならぬ意気込みを伝える。

主人公が所属する機関DSE(ヨーロッパ保安局)は、ヨーロッパの治安を脅かすテロ組織や密輸、スパイの取り締まりを主な任務とする。参加国は各国に支局を設置し、職員を派遣。データ・ベースを共有し、情報収集を行う。いわば、国境を越えた〝超〟諜報機関という設定で、物語にダイナミズムを生み出している。
序盤から中盤までは、南米での不可解な事件に端を発する策略の謎を解き明かす過程に費やし、やや平坦な感じもあるのだが、終盤に至り一気にボルテージを上げる。淡いロマンスも絡めてはいるが、本作最大の魅力は諜報員としてプロに徹し、殺しを厭わず冷たく燃える主人公のストイックさにある。特異なのは、主要な登場人物が次々に死んでいくことで、非情な闘いを冷然と描くその筆致は揺るぎない。

 評価 ★★★