海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「逆転のベルリン情報」L・クリスチャン・ボーリング

1985年発表作。垢抜けない邦題もあってか、翻訳された当時は全く話題になっていなかったが、冷戦期の分断ドイツを舞台としたスパイ小説の力作である。
長いプロローグとなる前半で下地をつくり、26年後の二重スパイ狩りへと繋ぐ。壁の築かれた東西ベルリンの臨場感溢れる描写が秀逸で、反共的な視点も極力抑えている。全てを怪しく疑うCIA防諜局長の職業病ともいうべき人間不信や、KGBの現地潜入のやり方を皮肉っている点も面白い。やや浅い人物造形も、練り込んだプロットで補われている。心憎い終幕も用意。決してテンポが良いとはいえないが、スパイ小説の魅力は存分に味わえるだろう。

評価 ★★★

 

逆転のベルリン情報 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

逆転のベルリン情報 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)