海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

ありがとう、ジャック・ヒギンズ

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ジャック・ヒギンズ(本名ヘンリー・パターソン)が、2022年4月9日、英領チャネル諸島ジャージー島の自宅で死去した。92歳だった。年齢を考えれば、大往生だろう。けれども、まだまだ生きる伝説として、衰退した冒険小説界を鼓舞して欲しかった。

代表作「鷲は舞い降りた」で冒険小説の虜となって以降、数々の作家/作品を読んできたが、やはりヒギンズは唯一無二の存在だった。その功績を振り返るために、まだ未読も多い初期作品を手元に置き、順に読もうとしていたところだった。残念でならない。

単なる活劇で終わらせることなく、冒険へと向かう人間の喜び/怒り/哀しみを謳い上げたロマン溢れる物語に何度酔いしれたことだろう。なぜ、己の生死を賭けてまで、無謀な冒険に挑むのか。その美学は、ヒギンズが好んで描いた孤独で誇り高いヒーロー像に全て投影されており、そのストイックな行動を通して、生きることの意味までを物語っていた。

骨太な冒険小説であると同時に、最高に格好いいヒーロー小説だった。たとえ、マンネリに陥ろうとも、たとえ筆力が落ちようとも、彼を愛する世界中の熱いファンのために、数多くの尊い作品を届けてくれた真に偉大な作家ジャック・ヒギンズ。本当にありがとう。私にできることは、その作品を読み、下手ながらも紹介し、できるだけ多くの人に、その魅力を伝えることだと思っている。ヒギンズを読まない人生なんて、つまらないではないか。まだ、ジャック・ヒギンズは終わってはいない。