未だ全貌が明らかではない歴史的事件を題材とする1986年発表作で、概ね評価は高い。曲者作家リテルならではのオフビートなスタイルによって、終盤近くまでどの方向へと流れていくのかが分からない。プロットの軸を敢えてぼかし、辿り着いた真相が最大限の衝撃を与えるよう念入りに構成している。東西両陣営の思惑によって歴史の闇へと葬られていく完全犯罪とは何か。読み手は様々な人物が入り乱れる中で、饒舌な彼らの言動を読み解き、背後にある陰謀の全貌を推測することとなる。いわば、その過程を楽しむことこそ、本作の読み方といえそうだ。リテルは謀略に明け暮れる諜報機関の欺瞞をニヒリズムの観点から茶化しており、時にシニカルなユーモアを用いて鋭く本質を突いている。
また、散々指摘されていることだが、訳者後書きは本作最大の肝に触れているため要注意。
評価 ★★★