海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「ドゥームズデイ・ブックを追え」ウィリアム・H・ハラハン

1981年発表の謀略小説。このジャンルは概して大風呂敷を広げるものだが、アイデアの奇抜さで本作は群を抜いている。

ドイツ再統一を目指す結社が、東西分断を引き起こした元凶のソ連を崩壊させるために、前代未聞のシナリオを書く。西側から越境して武器を運び込み、連邦内の民族蜂起を喚起、同時に中国を参戦させ、内と外両面から攻撃を加えて、共産党体制を打倒するというものだった。その詳細は終末の書「ドゥームズデイ・ブック」に記しており、ようやく実行段階に入った。だが、これを密かに入手した者がいた。ヨーロッパでの武器密輸の動きを追っていた軍事情報紙発行人パーカー。結社幹部は殺し屋を手配して男を暗殺するが、元米国諜報員のパーカーには仲間がいた。CIA上層部はパーカーの元同僚で、今は武器商人として世界の紛争地域を渡り歩くコリン・トーマスを呼び戻し、真相を探らせる。かくして、ドイツを舞台に狂気の結社とタフな工作員の攻防が展開していく。

まず、ソ連転覆の策謀が荒唐無稽過ぎて現実味に欠ける。出世作「亡命詩人、雨に消ゆ」(1977)でも顕著だったが、ハラハンはプロットの緻密さよりも、くせ者揃いの登場人物が入り乱れる先の読めないオフビートな展開を得意としているようだ。謀略の実体を暴こうとする側と、隠し通そうとする側の駆け引きに主軸を置くのだが、テンポは緩く、緊張感に乏しい。
ナチス・ドイツを標榜する元軍人らが、何十年もかけて計略を練り込み、或る者は軍資金を稼ぐために実業家となり、別の者は諜報部将軍にまでのし上がって反共の情報収集に従事する。しかし、高齢化で病に伏す者、老人特有の頑固さで事を急ぐあまりミスを犯す者など、偏屈で偏狭な首謀者らは空回りし、その隙を突かれてしまう。いわば、本作は謀略小説のパロディとしても読めるのだが、筋運びは粗く、結末の意外性にも大して感心しなかった。文章は簡潔で、さまざまなエピソードを盛り込んではいるものの、全体がまとまらず、すっきりとしない読後感を残す。

 評価 ★★